影山龍一郎 ウイルス・再生医科学研究所教授(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点=iCeMS(アイセムス)連携主任研究者 ) 、吉岡久美子 同教務補佐員、松宮舞奈 生命科学研究科博士課程学生(現・欧州分子生物学研究所研究員)、磯村彰宏 iCeMS 特定助教らの研究グループは、理化学研究所、東京大学と共同で、マウスの体節が形成される際にみられる細胞間で同期した遺伝子発現量の振動を生じさせるためには、細胞間シグナル伝達時間の適切な遅れが重要な役割を果たすことを明らかにしました。
脊椎動物では、受精卵から体が形づくられる発生の過程で、背骨・肋骨などの「節目」構造の元となる、体節と呼ばれる組織が周期的に形成されます。この体節形成の周期を制御するメカニズムは分節時計と呼ばれ、Hes7遺伝子の発現量がリズミカルに振動することがその中心的な役割を担っています。細胞内でのHes7遺伝子発現量の振動リズムが細胞間で同期することで、組織レベルのダイナミクスへつながります。この組織レベルでのHes7遺伝子発現量の同期が、規則正しい体節形成に重要であると考えられています。しかし、これまで、マウス胚において1細胞レベルでHes7遺伝子の振動を観察することが困難であり、細胞どうしの同期が生じる際の分子的なメカニズムは明らかにされていませんでした。
本研究では、新規の黄色蛍光タンパク質Achillesを用いたマウス胚のライブイメージングにより、Hes7遺伝子の発現量を1細胞レベルで計測し、個々の細胞での振動の様子を可視化することに成功しました。この系を用いて、糖転移酵素の一種であるLunatic fringe遺伝子が、細胞間のシグナルの伝達に適切な遅れを生み出し、これが同期を促進することを明らかにしました。本研究成果は、先天性脊柱側弯症などの遺伝疾患の発生メカニズムや、ホタルの集団発光やメトロノームの同期現象などといった自然界に普遍的にみられるリズム現象の同期メカニズムの理解につながると期待されます。
本研究成果は、2020年1月9日に、国際学術誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41586-019-1882-z
Kumiko Yoshioka-Kobayashi, Marina Matsumiya, Yusuke Niino, Akihiro Isomura, Hiroshi Kori, Atsushi Miyawaki & Ryoichiro Kageyama (2020). Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock. Nature, 580(7801), 119-123.
- 日刊工業新聞(1月9日 21面)に掲載されました。