寺内良平 農学研究科教授、斉藤宏昌 東京農業大学教授、Mark Banfield 英国ジョンイネス研究所教授、Sophien Kamoun 同セインズベリー研究所教授らの研究グループは、公益財団法人岩手生物工学研究センターと共同で、いもち病菌から分泌されるタンパク質と、それを認識して抵抗性を誘導するイネの抵抗性タンパク質の相互作用を分子レベルで解明しました。
本研究成果は、2018年7月10日に英国の国際学術誌「Nature Plants」 にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
病原生物の多くは、個体数が多く世代時間が短いため、さまざまな種類の突然変異が生じ、それらに効果的に自然選択が働くことにより、宿主生物に感染して繁殖するさまざまな機構が急速に進化します。一方、宿主生物においては、さまざまな抵抗性機構による病原菌への防御が進化します。感染と防御は相互の生物の進化を促すため、病原菌と宿主の間にはアームズレースと呼ばれる型の急速な共進化がおこります。私たちは、生物進化を理解する目的で、植物と病原菌の相互作用に注目し、イネといもち病菌の研究を続けています。本成果は、従来「遺伝子対遺伝子」説として知られていた病原菌の因子と植物の抵抗性因子の相互作用を、結晶構造解析により解明した画期的な国際共同研究成果です。
概要
いもち病は、イネの最も深刻な病害です。いもち病菌に強いイネを育成することは、日本および世界のコメの安定生産にとって重要な課題です。本研究グループは、いもち病菌から分泌されるタンパク質と、それを認識して抵抗性を誘導するイネの抵抗性タンパク質の相互作用の研究を進めた結果、いもち病菌の非病原力因子のわずか1個のアミノ酸の違いにより、イネ抵抗性タンパク質と強く結合するかしないかが決まることが分かりました。
また、いもち病菌の非病原力因子はイネの抵抗性タンパク質からの結合を避ける方向に、イネの抵抗性タンパク質遺伝子はいもち病の非病原力因子に結合する方向に進化が進んでいることも明らかになり、このことは、一方の進化が他方の進化を促す形の「共進化」を遂げていることを示しています。
本研究の手法によって、いもち病菌の非病原力因子とイネの抵抗性タンパク質の結合結晶構造を詳細に調べることにより、どのようなタイプの非病原力因子にも結合することが可能な抵抗性タンパク質を設計することが可能です。本研究成果により、抵抗性タンパク質遺伝子を品種育成に利用できれば、いもち病抵抗性が長続きするイネ品種の育成の可能性が期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41477-018-0194-x
Juan Carlos De la Concepcion, Marina Franceschetti, Abbas Maqbool, Hiromasa Saitoh, Ryohei Terauchi, Sophien Kamoun, Mark J. Banfield (2018). Polymorphic residues in rice NLRs expand binding and response to effectors of the blast pathogen. Nature Plants, 4(8), 576-585.