今城正道 生命科学研究科助教、松田道行 同教授、牟田優 医学研究科研修員らの研究グループは、生体内での細胞増殖に関わるタンパク質「ERK」の活性を、生きたマウスの腸上皮組織内で可視化することに成功し、ERKの制御機構の一端を解明しました。
本成果は、2018年6月5日に英国の国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
細胞増殖に中心的な役割を果たすERKの活性が生体内で突然上昇(発火)したり、伝搬したりする様子には衝撃を受けました。これらの現象は培養細胞を生化学的に解析する古典的な研究手法では解明できないもので、生体イメージング技術の有用性を実証しています。今後この技術を応用することで、さまざまな生命現象や疾患の機構を解明したいと考えています。
概要
生体内では、細胞は好き勝手に増殖するわけではなく、必要な時に必要な数だけ増えることが重要です。多くの場合、細胞の増殖は「増殖因子」という物質が細胞表面の受容体に結合し、それを合図として細胞内でERKというタンパク質が活性化することで開始されます。この機構の異常な活性化は発がんと関係しており、この機構を標的とした抗がん剤が開発されています。これまで、このERKの活性を生体内でリアルタイムに観察することは技術的に困難でした。
本研究グループは、生きたマウスの腸上皮組織内で、ERKの活性を可視化することに成功し、ERKの制御機構の一端を解明しました。腸上皮においてERK活性には一定した活性と一過的なパルス状の活性の2種類が存在すること、それらの活性がそれぞれEGFRとErbB2という異なる増殖因子受容体によって制御されていることを示しました。さらに腫瘍形成過程では、EGFRの機能が増強されることで、ERK活性の動態が変化することも分かりました。本研究成果は、生体内における細胞増殖の制御機構の一端を解明するもので、新しいがん治療戦略の開発への貢献が期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-018-04527-8
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232588
Yu Muta, Yoshihisa Fujita, Kenta Sumiyama, Atsuro Sakurai, M. Mark Taketo, Tsutomu Chiba, Hiroshi Seno, Kazuhiro Aoki, Michiyuki Matsuda, Masamichi Imajo (2018). Composite regulation of ERK activity dynamics underlying tumour-specific traits in the intestine. Nature communications, 9, 2174.