高橋良輔 医学研究科教授、漆谷真 滋賀医科大学教授、玉木良高 同医員、古川良明 慶應義塾大学准教授らの研究グループは、次第に身体の自由が失われる神経難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の原因タンパク質TDP-43の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功しました。細胞内で蓄積する異常な原因タンパク質のみに結合した後にプロテアソームやオートファジーで分解される「自己分解型細胞内抗体」を用いた画期的なアプローチで、難病ALSの根治治療の道を開く成果です。
本研究結果は、2018年4月16日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は全身の筋肉を動かす運動神経が変性し、一般的には発症から3年から5年以内に人工呼吸器補助無しに生命を維持できなくなる難病です。現在、大きく経過を改善させる有効な治療法は知られていません。ALSはTDP-43というタンパク質が異常凝集を形成することで引き起こされると考えられています。今回漆谷教授らが中心となり開発した細胞内抗体は異常凝集したTDP-43の分解を早めて除去し、その毒性を顕著に抑えることが示されました。細胞内抗体を実際に患者さんに応用するにはまだ課題がありますが、今後の研究の発展により画期的治療法開発につながる期待が持てます。
本研究成果のポイント
- 筋萎縮性側索硬化症の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功しました。
- 自己分解型細胞内抗体は、細胞内でALSの治療抗体を作らせるシステムで、発症に関わるTDP-43の異常構造のみと結合して分解を進めますが、正常に働いているTDP-43とは反応しません。
- 自己分解型細胞内抗体はプロテアソームとオートファジーという2大分解経路での分解を促す2つのシグナルを有しており、細胞内で作られた後、速やかに分解されます。
- 自己分解型細胞内抗体は培養細胞におけるTDP-43の異常凝集体を減少させ、細胞死を著明に抑制しました。
- 自己分解型細胞内抗体は胎児マウス脳においてもTDP-43の異常凝集体を著明に減少させ、さらに脳内で細胞内抗体を作らせた胎仔マウスは正常に出産、発育をしました。
概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋肉が萎縮し力が入らなくなくなる重篤な神経難病で、進行とともに全身の運動ニューロンが消失します。進行を遅らせる治療の開発は徐々に進んでいるものの、根治的な治療法はまだありません。長らく原因は不明でしたが、本来細胞の核内に存在するTDP-43というRNA結合タンパク質が、ALS患者の運動ニューロンの核から消失し細胞質で異常な凝集体を形成していること、さらにこの凝集体によって神経細胞死に至る様々な有害事象が起こることが判明し、TDP-43の異常な凝集体を除去することがALSの根治治療に直結するという可能性が注目されていました。
本研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質であるTDP-43の異常凝集体を除去する新たな治療抗体の開発に成功しました。この自己分解型細胞内抗体は、結合する凝集体が存在しない細胞では速やかに分解されてしまうため抗体蓄積による有害事象の懸念も少なく、分子標的治療として極めて有望であると考えられます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-018-24463-3
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231980
Yoshitaka Tamaki, Akemi Shodai, Toshifumi Morimura, Ryota Hikiami, Sumio Minamiyama, Takashi Ayaki, Ikuo Tooyama, Yoshiaki Furukawa, Ryosuke Takahashi, Makoto Urushitani (2018). Elimination of TDP-43 inclusions linked to amyotrophic lateral sclerosis by a misfolding-specific intrabody with dual proteolytic signals. Scientific reports, 8, 6030.
- 朝日新聞(5月31日夕刊 10面)、京都新聞(6月1日 27面)、産経新聞(6月7日 20面)、読売新聞(6月2日 8面)に掲載されました。