上村嘉誉 理学研究科修士課程院生(研究当時)、西村芳樹 同助教らの研究グループは、単細胞緑藻クラミドモナスに注目し、葉緑体核様体を蛍光タンパク質によって標識し、マイクロ流体デバイスによって観察することにより、その挙動を生きたまま追跡することに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、2018年5月17日に英国の科学誌「Communications Biology」に掲載されました。
研究者からのコメント
葉緑体はおよそ12億年前に藍色細菌が真核生物の祖先に共生することで誕生したといわれています。その誕生以来、葉緑体は分裂によってのみ増殖し、子孫に伝えられてきました。そのなかで、葉緑体がもつゲノムもまた、正確に増幅・分配・遺伝されてきたわけですが、今回、それを可能とする葉緑体分裂時の葉緑体核様体のダイナミックなうごきが、世界ではじめて捉えられました。葉緑体核様体ということばはまだまだ認知度が低く、植物の研究者にもほとんど知られていないほどです。これを機に、その不思議な魅力を少しでも多くの方に知っていただければ幸いです。
概要
葉緑体は地球の生命活動の基盤である光合成などを担う重要な細胞内小器官です。その起源は独立した藍色細菌がとりこまれて共生したものといわれており、その証拠に葉緑体には独自のゲノム(DNAの全ての遺伝情報)が存在します。葉緑体ゲノムはタンパク質によって折りたたまれて「核様体」を形成し、これらは葉緑体における遺伝子機能の中枢として機能します。しかしこれまで、葉緑体核様体の動きを生きた細胞で捉えた例はありませんでした。そこで本研究チームは、ひとつの細胞あたりひとつの葉緑体をもつ単細胞緑藻クラミドモナスに注目し、葉緑体核様体を蛍光タンパク質によって標識し、マイクロ流体デバイスによって観察しました。
クラミドモナスでは、葉緑体核様体はひとつの葉緑体あたり通常5〜10個存在する球状構造であると考えられてきました。ところが今回の観察の結果、それら球状の葉緑体核様体が、葉緑体分裂にともなって細かく解体され、互いにつながったネットワーク状構造へと変化し、葉緑体分裂の完了とともに再び球状構造に復帰するというダイナミックな動態が、世界で初めてとらえられました。
さらに、葉緑体核様体が凝集してしまう変異体では、葉緑体核様体の新規合成が既成の葉緑体核様体の外側の近傍領域で起きており、そこで形成された微小な粒子が次々に取り込まれる様子がとらえられました。今回の発見により、葉緑体核様体が孤立した球状構造であるとする40年来の定説が覆され、それが実際には柔軟なネットワーク構造を形成していること、さらに葉緑体核様体の近傍領域は、葉緑体ゲノムの複製と核様体構築のホットスポットであることが明らかになってきました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s42003-018-0055-1
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231205
Yoshitaka Kamimura, Hitomi Tanaka, Yusuke Kobayashi, Toshiharu Shikanai, Yoshiki Nishimura (2018). Chloroplast nucleoids as a transformable network revealed by live imaging with a microfluidic device. Communications Biology, 1, 47.
- 読売新聞(6月8日 13面)に掲載されました。