畑匡侑 医学部附属病院助教、池田華子 同准教授らの研究グループは、iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)、理化学研究所統合生命医科学研究センター、新潟薬科大学と共同で、患者由来のiPS細胞を用いて、眼の難病であるクリスタリン網膜症の病態解明に成功しました。この新規の疾患発症機序を通して、いまだ治療薬のないクリスタリン網膜症に対する創薬研究の進展が期待されます。
本研究成果は、2018年3月27日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載されました。
研究者からのコメント
患者さんから樹立したiPS細胞を用いて、目の難病、クリスタリン網膜症の発症のメカニズムを明らかにすることができました。また、発症・病気の進行を抑える可能性のある薬剤があることもわかってきました。今回の研究が、今後の治療薬の開発につながるのではと期待しています。
概要
クリスタリン網膜症は、日本人に多い遺伝性網膜変性疾患であり、病初期には網膜色素上皮細胞が障害され、その後2次的に視細胞障害が生じて網膜変性が進行することで最終的に失明に至ると考えられています。クリスタリン網膜症の原因遺伝子は、チトクロームP450の CYP4V2 であると報告されていましたが、その病態は全く分かっていませんでした。
本研究グループは、疾患特異的iPS細胞を用いて、患者由来の網膜色素上皮細胞を得ることで、試験管内での疾患モデルの作成に成功しました。患者由来の網膜色素上皮細胞では、空胞形成を伴う細胞変性が生じており、その結果、細胞死が引き起こされていました。また、患者由来の網膜色素上皮細胞に対して、網羅的脂質解析を用いることで、細胞内の遊離コレステロール蓄積がリソソーム機能障害を介して細胞変性・細胞死を引き起こしていることが明らかとなりました。更に、シクロデキストリン誘導体やδ-トコフェロールといった化合物は、網膜色素上皮細胞内の遊離コレステロール蓄積を阻害することで、クリスタリン網膜症の病態を改善させることが示されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1717338115
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230307
Masayuki Hata, Hanako O. Ikeda, Sachiko Iwai, Yuto Iida, Norimoto Gotoh, Isao Asaka, Kazutaka Ikeda, Yosuke Isobe, Aya Hori, Saori Nakagawa, Susumu Yamato, Makoto Arita, Nagahisa Yoshimura and Akitaka Tsujikawa (2018). Reduction of lipid accumulation rescues Bietti's crystalline dystrophy phenotypes. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(15), 3936-3941.
- 朝日新聞(3月27日 37面)、産経新聞(3月27日夕刊 10面)および読売新聞(3月27日夕刊 10面)に掲載されました。