田中庸裕 学際融合教育研究推進センター触媒・電池元素戦略ユニット長(工学研究科教授)、朝倉博行 同特定助教らの研究グループは、東京大学をはじめとする国内8の大学・研究機関と共同で、貴金属成分の酸化還元挙動を解明しました。この結果は、自動車排ガス浄化触媒の耐久性向上に関する知見を与えると期待されます。
本研究成果は、2017年12月11日に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
触媒・電池元素戦略ユニットでは、自動車排ガス浄化触媒における貴金属元素の使用量低減化および代替を目指しています。本研究成果では、SPring-8の高度かつ安定した測定装置を利用することで、自動車排ガス浄化触媒による複雑な反応をリアルタイム分析しながら、貴金属成分の状態を直接観察することに成功しました。また、同ユニット細川三郎特定准教授は、触媒反応中に酸素を出し入れすることで高い浄化性能を保つことを可能にする新規な酸素貯蔵材料の開発に成功しており、今後は本手法を応用することで、その浄化性能向上の要因を明らかにし、高性能な自動車排ガス浄化触媒の設計指針を提案していきます。
概要
自動車排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO x )、未燃焼の燃料成分などの有害物質を浄化する(三元触媒反応)ために、自動車排ガス浄化触媒には大量のロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの貴金属元素が利用されており、2012年にはRh、Pd、Ptの年間生産量の内、それぞれ80、70、40%が自動車排ガス浄化触媒に利用されています。世界的な自動車排ガス排出基準の厳格化や自動車台数の増加を背景に、自動車排ガス浄化触媒における貴金属使用量の低減は喫緊の課題となっています。自動車排ガス浄化触媒は、10万kmにも及ぶ長距離走行においても高い排ガス浄化性能を維持することが求められますが、1,000度近くに及ぶ高温下での使用により、もともと微粒子だった貴金属成分が互いにくっつき合わさって触媒性能が低下してしまうことから、これを補うために大量の貴金属が使用されています。これまで、このような金属粒子成長過程の酸化還元に関して、実排ガスに近い環境における基本的な挙動は明らかではありませんでした。
本研究グループは、世界最高レベルの強度を有する大型放射光施設SPring-8の共用ビームラインBL01B1にて、XASおよび多種のガス分析装置を用いて、模擬排ガス環境下でリアルタイム分析を行うことにより、Rh粒子の酸化還元挙動に関する知見を得ました。貴金属粒子表面の酸化過程において、酸化された箇所が徐々に広がっていくのに対して、還元過程では表面がランダムに還元されていくことを見いだしました。この知見は、貴金属使用量の低減あるいは高耐久化への指針になると期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.7b07114
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229120
Hiroyuki Asakura, Saburo Hosokawa, Toshiaki Ina, Kazuo Kato, Kiyofumi Nitta, Kei Uera, Tomoya Uruga, Hiroki Miura, Tetsuya Shishido, Junya Ohyama, Atsushi Satsuma, Katsutoshi Sato, Akira Yamamoto, Satoshi Hinokuma, Hiroshi Yoshida, Masato Machida, Seiji Yamazoe, Tatsuya Tsukuda, Kentaro Teramura, and Tsunehiro Tanaka (2018). Dynamic Behavior of Rh Species in Rh/Al2O3 Model Catalyst during Three-Way Catalytic Reaction: An Operando X-ray Absorption Spectroscopy Study. Journal of the American Chemical Society, 140(1), 176-184.