堀健太郎 生命科学研究科教務補佐員、山田泰之 同特定研究員、Ratmoyo Purwanto 同博士課程学生、佐藤文彦 同教授らの研究グループは、国立遺伝学研究所、かずさDNA研究所と共同で、ケシ科ハナビシソウのゲノム配列を解読し、ハナビシソウが作り出す有用二次代謝産物イソキノリンアルカロイドの生合成酵素遺伝子の構造と機能を解析しました。その結果、CYP82遺伝子ファミリーがハナビシソウにおいて機能分化し、ハナビシソウのイソキノリンアルカロイドの多様化に貢献していることが明らかになりました。
本研究成果は、2017年12月29日に「Plant and Cell Physiology」誌にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
これまで、ゲノムの解読は、非常に困難であると考えられてきました。今回、ハナビシソウのゲノム解読により、多様な二次代謝系の進化の解明、ならびに、新たな生合成酵素遺伝子の発掘の糸口ができたと、研究のさらなる展開に期待しています。
概要
植物は様々な有用な二次代謝産物を産生しますが、その中でも含窒素化合物であるアルカロイドは顕著な生理活性を示し、モルヒネやビンブラスチン等医薬品としても用いられるものが多く存在します。これらのアルカロイドの中で、チロシンから生合成されるイソキノリンアルカロイドは、モルヒネの他に、ベルベリン等の有用医薬品を含むとともに、その構造の多様性が知られています。イソキノリンアルカロイドの生合成系については、京都大学、ドイツ/アメリカ、カナダの研究グループを中心に、生合成酵素、さらには、生合成酵素遺伝子の単離と解析等が精力的に進められ、多くの生合成酵素遺伝子の同定が進んでいます。また、これらの知見をもとに、植物における代謝工学のみならず、微生物による合成生物学的生産等が可能となってきています。しかし、どのようにその生合成系が進化発展してきたかは、まだ十分には解明されていません。
本研究グループは、北米原産の園芸植物であり、かつ薬用植物でもあるケシ科のハナビシソウのゲノム配列を解読しました。ハナビシソウは、イソキノリンアルカロイド生合成系のモデル植物ともなっています。そのゲノム情報をもとに、ハナビシソウが作り出す有用二次代謝産物イソキノリンアルカロイドの生合成酵素遺伝子、特に、アルカロイドの多様性を生み出すチトクロムP450遺伝子の構造と機能を解析しました。
その結果、チトクロムP450遺伝子群のうち、CYP82ファミリーがハナビシソウにおいて多様化するとともに機能分化し、ハナビシソウのイソキノリンアルカロイドの多様化に貢献していることが明らかになりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1093/pcp/pcx210
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229010
Kentaro Hori, Yasuyuki Yamada, Ratmoyo Purwanto, Yohei Minakuchi, Atsushi Toyoda, Hideki Hirakawa, Fumihiko Sato (2018). Mining of the Uncharacterized Cytochrome P450 Genes Involved in Alkaloid Biosynthesis in California Poppy Using a Draft Genome Sequence. Plant and Cell Physiology, 59(2), 222-233.