霊長類最大の群れで暮らす、野生マンドリルの食生活 -季節的な「食糧難」への柔軟な対応-

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本郷峻 霊長類研究所研究員、中島啓裕 日本大学助教、Etienne F. Akomo-Okoue ガボン熱帯生態研究所研究員、Fred L. Mindonga-Nguelet マスク科学技術大学博士課程学生らの研究グループは、霊長類の中で最も大きな群れで暮らすマンドリルの採食と行動範囲の季節変化について調べました。その結果、果実が豊富な時期よりも果実減少期に食物レパートリーの多様性が高まり、行動範囲が広くなることが分かりました。

本研究成果は、2017年12月9日にSpringer社の国際学術誌「International Journal of Primatology」に掲載されました。

研究者からのコメント

大集団で広大な行動圏を動き回るマンドリルの遊動パターンを解明するには、群れを見つけて追跡する方法だけでは限界がありました。本研究では、カメラトラップという新しい手法を用いて、彼らが季節ごとに動き方を明確に変えていることを明らかにすることができました。2年間連続してデータ収集が達成できたのは、日本人研究者だけでなく現地のガボン人研究者とも協力して調査が行えたからです。この点で本研究は、海外で行う長期生態研究のモデルとなるのではと期待しています。

概要

霊長類の多くは生息環境の季節変動に合わせて、採食行動や遊動を対応させますが、この季節的な対応は大きな群れで暮らす種ほど重要であると考えられます。雨季と乾季があるアフリカ熱帯季節林に生息するマンドリル( Mandrillus sphinx )は、最大845頭という霊長類の群れとしては最大の集団を作ります。大集団を維持するためには、彼らが好む果実の量が大幅に減少する3月~8月にかけての行動を顕著に変化させる必要があると考えられます。しかし、野生マンドリルの採食と遊動の季節変化はこれまで十分に分かっていませんでした。その原因として、群れの個体数が非常に多く行動範囲も広大であるため群れを人間に慣れさせることが難しく、さらに見通しの悪い熱帯林に生息するために、直接観察して行動を記録することも極めて困難なことが挙げられます。

本研究グループは、ガボン・ムカラバ-ドゥドゥ国立公園の約400km 2 を対象に、群れの追跡中に採集した糞の内容物から食性の季節変化を、自動撮影装置(カメラトラップ)によって得られた群れの映像から遊動パターンの季節変化を分析しました。その結果、マンドリルは好物の果実が少なくなる3月~8月にかけて、地面にある種子・木の根・地下茎などを多く食べて食物のレパートリーを高めていました。また果実減少期の行動範囲は果実が豊富な時期よりも広くとることが分かりました。このような採食と行動の柔軟な季節変化によって、マンドリルは霊長類最大の群れを維持できていると考えられます。

図:今回の調査中にカメラトラップで撮影されたマンドリルの成獣オス

好物の果実が少ない時期には地面を前足で掘り返して種子や木の根などを探して食べる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1007/s10764-017-0007-5

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230380

Shun Hongo, Yoshihiro Nakashima, Etienne François Akomo-Okoue, Fred Loïque Mindonga-Nguelet (2018). Seasonal Change in Diet and Habitat Use in Wild Mandrills (Mandrillus sphinx). International Journal of Primatology, 39(1), 27-48.