松浦健二 農学研究科教授、末廣亘 同博士課程学生、兵藤不二夫 岡山大学准教授、辻瑞樹 琉球大学教授、ロブ・ダン ノースカロライナ州立大学教授、エドワード・バーゴ テキサスA&M大学教授らの日米共同研究グループは、日本から米国に侵入したオオハリアリの食性が侵入地で変化し、他のアリを追いやって分布を拡大していることを、日米両国での野外調査と放射性炭素分析による食物年代測定から明らかにしました。本研究成果は、外来種の生態が原産地と侵入地で変化することにより、原産地の状況からは予測できない大きなインパクトを侵入地の生態系に与え得ることを示しており、さまざまな外来生物の問題に取り組む上でもきわめて重要な意味をもちます。
本研究成果は、2017年11月3日10時に英国の科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
今年はヒアリの国内侵入のニュースが世の中を騒がせましたが、逆に日本から海外に侵出して問題になっているアリがいることをご存じでしょうか。本研究は、日本のオオハリアリが米国に侵入して在来アリ種を追いやりながら分布を拡大している背景に、餌メニューの拡大があることを突き止めました。原産地の日本で主にシロアリを捕食しているオオハリアリが、侵入先の米国ではシロアリだけでなく、土壌節足動物や植食性昆虫なども幅広く捕食していることが示されました。
人の物流に乗って知らぬ間にたくさんの生物が海を越えて往来しています。なぜ、ある種は侵略的外来種となって猛威をふるい、またある種は定着できずに消えていくのか。その本質的な問いに答えるためには、原産地と侵入地の研究者が密に連携し、地道な研究を積み上げていくことが不可欠だと実感しています。
概要
人間の活動によって、意図的あるいは非意図的に、多くの生物が本来の生息場所ではない場所に持ち込まれ、在来の生物に悪影響を及ぼすことが大きな問題となっています。この外来種問題は、種の絶滅を引き起こす重要な要因の一つとして知られています。特にアルゼンチンアリやヒアリをはじめとする外来アリは侵入地で爆発的に増殖し、さまざまな在来生物に壊滅的な影響を与えており、大きな問題となっています。しかし、どんなアリでも侵入先で定着し、広まることができるわけではありません。では、どのような特徴をもっているアリが、侵略的外来種になりやすいのでしょうか。近年注目されている特徴の一つが、食性の柔軟性です。一つの餌しか利用できない種は、侵入先でその餌を巡る在来種との競争が激しい場合には定着が容易ではありません。しかし、さまざまな餌を利用でき、侵入先でより利用しやすい餌メニューに変えることができれば、有利に繁殖できると考えられます。
日本でシロアリの捕食者として知られるオオハリアリ Brachyponera chinensis は森の朽ち木の中などに巣を作ります。オオハリアリは頻繁にシロアリの営巣木に同居し、その毒針でシロアリをハンティングしながら生活しています。このオオハリアリが米国に侵入し、その分布を拡大しています。本研究では、まず、原産地の日本と侵入地の米国で朽ち木に営巣するシロアリとアリの採集調査を行い、オオハリアリの米国への侵入が在来種にどのような影響を与えているかを調べました。また、安定同位体分析と放射性炭素分析により、オオハリアリの食性が原産地と侵入地で異なるかどうか調べました。
その結果、米国に侵入したオオハリアリがシロアリ以外の餌も幅広く利用するように食性を変化させたことが分かりました。そして、その⾷性幅の拡⼤が、さまざまな在来アリにも影響を及ぼし、在来種の種数を減らしていることも分かりました。これらの結果は、外来種の⽣態が原産地と侵⼊地で変化することにより、原産地の状況からは予測できない⼤きなインパクトを侵⼊地の⽣態系に与え得ることを⽰しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-15105-1
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227894
Wataru Suehiro, Fujio Hyodo, Hiroshi O. Tanaka, Chihiro Himuro, Tomoyuki Yokoi, Shigeto Dobata, Benoit Guénard, Robert R. Dunn, Edward L. Vargo, Kazuki Tsuji & Kenji Matsuura (2017). Radiocarbon analysis reveals expanded diet breadth associates with the invasion of a predatory ant. Scientific Reports, 7, 15016.
- 読売新聞(11月24日 27面)に掲載されました。