平板に衝突した滴の濡れ面積が新理論で予測可能に!

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功刀資彰 工学研究科教授、米本幸弘 熊本大学助教らの研究グループは、平らな固体物質の表面上に衝突した液滴の濡れ拡がり面積を、定量的に予測する理論式を導き出すことに成功しました。固体面上に衝突する液滴の挙動は一見単純そうですが、固体表面の粗さや液体の流体運動、固体と液体表面間の濡れ性(液体の付着しやすさ)等といった様々な要素が影響し合い、複雑な様相を呈します。これまで世界中の研究者が実験、理論や数値解析的観点から濡れ拡がり面積の定量予測に挑んできましたが、衝突速度が遅い領域の予測は実現できていませんでした。

本研究成果は、2017年5月24日午後6時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

近年、インクジェット技術を用いた半導体基板のナノスケールの回路作成技術が注目を浴びていますが、ナノスケールの現象の観察には高額な実験装置が必要になり、また、数値解析による予測では専門的な技術を必要とします。本研究の成果は、簡易的な方法で衝突後の液滴の最大濡れ拡がり面積を予測できるため、効率的な回路設計等の実現が期待できます。

概要

固体表面への液滴の衝突は、インクジェット、自動車エンジンのインジェクターやスプレー冷却など数多くの工業分野で見られる現象であり、衝突後の液滴の最大濡れ拡がり面積は、製品の質や装置の効率を大きく左右する重要なパラメーターです。液滴の最大濡れ拡がり面積は、液滴の性質や、液滴がぶつかる速度、固体の性質でも異なります。例えばぶつかる先がガラスかテフロン加工の素材かでも最大濡れ広がり面積が異なってきます。濡れやすいか、はじきやすいかといった液体の付着しやすさを「濡れ性」と言います。

固体表面上に付着した液滴の濡れ性は、簡単には、接触線(気体、液体、固体の三つの相が接している線)での水平方向の力学的バランス式(ヤングの式=接触線を起点として液体表面の接線方向に掛かる表面張力と、固体表面に沿う、液体内部側と外部側に掛かる表面張力の釣り合い式)により特徴づけられますが、垂直方向に関しては固体との反力により釣り合うとされ、無視されます。

従来の衝突液滴の最大濡れ拡がりに関する理論検討では、主に接触線の水平方向のバランス式のみを考慮したものが多く、広範囲の衝突速度条件での液滴最大濡れ拡がり面積を予測する関係式はありませんでした。特に衝突速度が遅い場合の最大濡れ広がり面積は誤差が大きく、また、速度が遅い場合について正確に予測する別の式では、速度が上がると誤差が生じるといった欠点がありました。

そこで本研究グループは、今まであまり検討されてこなかった接触線での垂直方向の表面張力に着目し、固体表面上に衝突する液滴のエネルギーバランスを検討しました。その際、衝突時の液滴内部で生じる流体運動によるエネルギーの粘性散逸(流れの運動エネルギーが流体分子の衝突等(分子粘性)により熱エネルギーに変換され、消失すること)に関する従来法の取り扱いの欠点を見直すことで、新しい理論式を導出しました。新しく導かれた理論式は、シリコンゴムや超撥水基板といった様々な種類の固体基板と液滴間の衝突時の最大濡れ拡がり面積を定量的に予測できる可能性を示しました。さらに、ミリサイズの液滴だけでなくマイクロサイズの液滴へも適用できることも確認しました。

図:シリコンゴム基板上に衝突する液滴の撮影画像

それぞれの落下開始地点の高さは、(a)z=10mm、(b)z=100mm、(c)z=700mm。高さが高い(速度が大きい)ほど最大濡れ拡がり面積は大きくなる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-02450-4

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/224988

Yukihiro Yonemoto, Tomoaki Kunugi (2017). Analytical consideration of liquid droplet impingement on solid surfaces. Scientific Reports, 7, 2362.