ダニエル・パックウッド 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)講師、パトリック・ハン 東北大学助教、一杉太郎 東京工業大学教授らの研究グループは、入力データから物理的現象を予測する新しい数理的フレームワークを構築することにより、「グラフェンナノリボン」という毛髪直径の100,000分の1ほどの微小な電線の形成過程を明らかにしました。機械学習と数理モデルを組み合わせた方法で、グラフェンナノリボンの形成過程に生じる分子配列の予測が可能になり、極微小エレクトロニクスへの道を拓くことが期待されます。
本研究成果は、2017年2月14日午後7時に英国のオンライン科学誌「Nature Communications」で公開されました。
研究者からのコメント
今回の成果は、エレクトロニクス素子(電子回路)の高速化や低消費電力化につながり、今後、極微小電子デバイスの実現を通じて、人工知能やロボットへの貢献が期待できます。さらに、フレキシブルな(柔らかい)エレクトロニクスデバイスにもつながり、医療など、さまざまな分野に応用されることが期待されます。
概要
グラフェンナノリボンは、平面状のグラフェン(炭素原子からなるシート状の材料)を細く切り出した線状のもので、その幅は炭素原子が数個から数十個並ぶ極微小細線です。このグラフェンナノリボンは、従来のエレクトロニクスで利用されているシリコンと比べて2,000倍以上の電気伝導性があり、微小な電気配線としての応用が期待されています。しかし、その長さや幅、あるいは、配線の端(エッジ)の形状を制御することが難しく、世界中で活発な研究が展開されています。グラフェンナノリボンは、金属表面上に吸着した分子が自発的に集合してできる鎖に似た構造(鎖構造)が、さらに化学変化を起こして生まれます。しかしこれまでは、それらの分子が自発的にどのように配列するのか、理論予測が困難でした。
そこで本研究グループは、金属表面上に吸着した分子の配列を予測する新しい数理的フレームワークを構築しました。このフレームワークでは、分子間に起きる相互作用をデータベースから機械学習により学び、人工知能が適切な数理モデルを自動的に組み立てます。これにより、非常に高い確度で分子配列を予測し、グラフェンナノリボンの形成過程において、分子が鎖構造を形成するメカニズムを解明することに成功しました。
図:グラフェンナノリボンとそのサイズの比較。茶色の球面は炭素原子、白い球面は水素原子(グラフェンナノリボンと分子はコンピューター生成イメージ)
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1038/ncomms14463
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218201
Daniel M. Packwood, Patrick Han & Taro Hitosugi. (2017). Chemical and entropic control on the molecular self-assembly process. Nature Communications, 8:14463.
- 化学工業日報(2月16日 1面)に掲載されました。