末盛博文 ウイルス・再生医科学研究所准教授、宮崎隆道 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点助教らの研究グループは、培養基質のコーティング処理を必要としない、ヒト多能性幹細胞の拡大培養法を開発しました。この技術は、多能性幹細胞の日常的な培養維持に加え、創薬・細胞治療などに応用するにあたり細胞を大量生産させる工程において、培養操作の簡便化および低コスト化に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2017年1月30日午後7時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
ラミニン断片を培養基質として用いる培養法は、ヒトiPS細胞の樹立や維持拡大など、国内の基盤技術として広く普及しています。本成果はラミニン断片を用いた培養の多くにそのまま適応できる可能性があり、ヒト多能性幹細胞利用の低コスト化と培養操作の簡素化・時間短縮を実現するものと考えています。この技術により、ヒト多能性幹細胞を利用した創薬研究や細胞療法の実用化が一層加速されることが期待されます。
本研究成果のポイント
- ヒト多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)の培養操作の簡便化と低コスト化が可能に。
- 培養基質(接着性細胞が接着、生存、増殖するための足場となり得る基材)をコーティングせず培養液に添加するのみで、従来の培養法と同等以上のヒト多能性幹細胞の接着が可能に。
- 従来のコーティング処理と比べ、より少ない培養基質の使用量で細胞接着が可能に。
概要
ヒト胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞のような多能性幹細胞を創薬や細胞治療などに応用するには、非常に多くの数の細胞を生産する必要があります。これら多能性幹細胞を拡大維持するには、培養容器への多能性幹細胞の接着性を高め、生存性を向上させるのに適した培養基質を、容器内にあらかじめコーティングしておく必要があります。多能性幹細胞の維持培養に適した培養基質としては、ラミニン511(多くの細胞が足場としている、α鎖、β鎖、γ鎖から成る三量体タンパク質で、組織外側の境界にある基底膜を構成する成分)の組換えタンパク質断片(商品名:iMatrix-511、ニッピ)、あるいはラミニン521やビトロネクチンが知られていますが、これら培養基質の容器へのコーティングには通常、培養細胞を移し替える(継代)直前に1時間から一晩、緩衝液に溶解させた状態で恒温処理する工程が必要とされます。この工程のため、多能性幹細胞の培養操作には時間と手間を要しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1038/srep41165
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217926
Takamichi Miyazaki, Takehisa Isobe, Norio Nakatsuji & Hirofumi Suemori. (2017). Efficient Adhesion Culture of Human Pluripotent Stem Cells Using Laminin Fragments in an Uncoated Manner. Scientific Reports, 7:41165.
- 朝日新聞(2月2日 26面)、京都新聞(2月3日 25面)、産経新聞(1月31日 24面)、読売新聞(1月31日夕刊 8面)に掲載されました。