ボノボも老眼になる -現代社会の目の酷使と老眼は無関係?-

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柳興鎭 霊長類研究所博士課程学生、古市剛史 同教授らの研究グループは、人間に最も近い類人猿である野生ボノボの老眼の進行が人間と非常に似ていることを発見しました。これは、人間とボノボの目の老化の速度が共通の祖先から大きく変わっていないことを示唆します。これまで、読み書きなど現代社会でよくある目と近い距離で起こる作業が老眼の原因として指摘されてきましたが、実際には老眼と大きな関連がなく、自然な老化の過程であるとうかがえます。

本研究成果は、2016年11月8日に米国の学術誌「Current Biology」で発表されました。

研究者からのコメント

老眼は野生のチンパンジーでも事例報告がありましたが、これを定量的に分析して人間と比較した研究は、今回が初めてです。もし目だけでなく他の体の部位の老化も同様に起こる場合、人間の長寿命は進化的に選択されたものではなく、社会的・環境的な要因によって促進された可能性が高いといえるでしょう。

また、老眼が発見されたボノボのうち、3頭がオスでした。野生のオスチンパンジーはほとんど40歳に到達せず死ぬため、野生のオスのチンパンジーではまだ老眼が報告されていません。もし野生のオスボノボが野生のオスチンパンジーに比べて、老眼が来るまでより多く生き残るなら、ボノボの寛大で平和的な社会環境がボノボのオスの長寿命に影響を与えていると考えられます。そうすると現代人間の長寿命もこのような社会環境の要因に大きな影響を受けたと考えることができるため、今後の比較研究において考慮すべき事項と思われます。

本研究を通じて、人間の進化を理解するためには、長期的に霊長類の屋外調査を行うことが重要であると再確認しました。

概要

人間の寿命は更年期の後も約20~30年以上続きます。このように長い寿命が人間特有なことなのか、他の霊長類でも似た例が存在するのかについては、専門家の間で意見が分かれています。人間の長寿命は現代社会の栄養供給と公衆衛生の改善から現れた副産物だという主張もあるので、人間の長寿命の理由についてはまだ確かな結論に達していません。

そこで本研究グループは、人間の身体の老化の現象でよく知られている老眼がボノボで発見されるか、もしそうなら、それはどのように進むのか、人間と定量的な比較を試みました。デジタルカメラと巻尺を用いてボノボの耳の長さを測定し、この耳の長さを利用してボノボが毛繕いをするときの目と指間の距離を測定しました。

その結果、毛繕い距離が年齢の増加に応じて指数的に増加することを発見し、この増加のパターンが人間とほぼ一致することを明らかにしました。これは人間とボノボの目の老化に大きな差がないことを示します。

図:毛づくろいをするボノボ

目と指の間に一定距離を保つ様子が分かる。
※写真提供:柳博士課程学生

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.09.019

Heungjin Ryu, Kirsty E. Graham, Tetsuya Sakamaki and Takeshi Furuichi. (2016). Long-sightedness in old wild bonobos during grooming. Current Biology, 26(21) pp. R1131–R1132.

  • 朝日新聞(11月8日 34面)、京都新聞(11月8日 25面)、産経新聞(11月10日 25面)、中日新聞(11月8日 25面)、日本経済新聞(11月12日夕刊 8面)、毎日新聞(11月8日 28面)および読売新聞(11月8日 33面)に掲載されました。