乳がん細胞の転移を促進する新たなメカニズムの解明 -SALL4-integrin α6β1系による移動能力の亢進-

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伊東潤二 医学研究科特定助教、戸井雅和 同教授、飯田敦夫 再生医科学研究所助教、瀬原淳子 同教授らの研究グループは、転移しやすい乳がんの細胞では、遺伝子の発現を制御する転写因子SALL4が細胞と細胞外基質の接着に関わる遺伝子integrin α6とintegrin β1の発現を増大させることで高い移動能力を持つことを発見しました。加えて、ゼブラフィッシュの稚魚へ乳がん細胞を移植したところ、今回発見した仕組みが実際の生物の体の中でもがんの転移を促進させることを確認しました。

本研究成果は2016年10月20日に「Biochimica et Biophysica Acta-Molecular Cell Research」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究は、SALL4によるがんの移動能力の亢進メカニズムを明らかにしました。しかし、がんの悪性化には、さまざまな分子が関わっており、不明な点が残っています。今後も、がん細胞に悪性を与えているメカニズムを明らかにしていき、がんの予防や治療に貢献できればと考えています。

概要

がん細胞は転移により、体内のさまざまな組織・臓器に拡がり機能を阻害します。がん細胞が転移するには移動する能力を高める必要がありますが、どのような分子が、どのようにして転移性のがんに高い移動能力を与えているのか、不明な点が多く残っています。

転写因子(遺伝子の発現を調節して、細胞の性質を変化させる分子) SALL4は、主に細胞増殖の活性化を通してがんを悪性化させることが知られていました。また、これまでの報告ではSALL4が乳がんなどの固形がんの転移を促進させることが示唆されていました。しかし、SALL4がどのように転移を促進させるのか、そのメカニズムは不明なままでした。

そこで本研究グループは、転移における SALL4の働きを調べるために、転移性乳がんの細胞株でSALL4 の発現抑制実験を行いました。その結果、SALL4が転移性乳がんの移動能力を高めていることが分かりました。そして、SALL4に制御され細胞移動に関わる遺伝子の探索を行ったところ、integrin α6遺伝子とintegrin β1遺伝子をつきとめました。

次に、SALL4抑制細胞に、integrin α6β1の過剰発現を導入したところ、低下していた移動能が回復したことから、SALL4-integrin α6β1系が、乳がん細胞の移動能力の亢進に働いていることが分かりました。さらに、SALL4-integrin α6β1系が生体内での転移を促進することを、小型魚類ゼブラフィッシュの稚魚への乳がん細胞移植実験で明らかにしました。

図:転移性乳がん細胞で、SALL4 によって移動能力が向上するメカニズム

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.bbamcr.2016.10.012

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/217245

Junji Itou, Sunao Tanaka, Wenzhao Li, Atsuo Iida, Atsuko Sehara-Fujisawa, Fumiaki Sato, Masakazu Toi. (2016). The Sal-like 4 - integrin α6β1 network promotes cell migration for metastasis via activation of focal adhesion dynamics in basal-like breast cancer cells. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research.