2種類のナノファイバーを自発的に構築する分子ペアの発見と形成過程のその場観察-次世代インテリジェント材料開発へのマイルストーン-

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浜地格 工学研究科教授、窪田亮 同助教、重光孟 日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、水中で性質の異なる2種類の自己組織化ナノファイバーを自発的に構築する分子ペアを発見し、それらの形成過程のその場観察(イメージング)することに成功しました。

本研究成果は、2016年5月31日付で英国科学誌「Nature Chemistry」誌のオンライン速報版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、浜地教授、窪田助教、重光日本学術振興会特別研究員

本研究で得られた指針をもとに、さまざまな分子の組み合わせが検討され、究極的には細胞のように、環境や刺激に応じて自律的に考えて物性を変化させる、新たな機能材料への発展が期待されます。また、本研究では複数の合成分子が存在する環境での自己組織化プロセスを観察できる新たなイメージング手法を示し、動態の観察に成功しました。本手法を駆使することで、合成分子の自己組織化に関する深遠な理解が進むことが期待できます。さらに、そのような知見は生物における自己組織化現象の理解と制御についても有用な情報を与えるため、多様な分野へ影響を及ぼすと考えられます。足掛け5年に渡る悪戦苦闘の成果です。

概要

細胞内では、タンパク質からできた様々なナノメートルサイズの繊維(ナノファイバー)が存在し、各々が生命機能に個別の役割を果たしています。細胞内には数多くのタンパク質や小分子が存在していますが、特定のタンパク質は自分と同じタンパク質を自発的に認識して結合し、タンパク質ごとに異なるナノファイバーを作り出すことが可能です。この現象はself‐sortingと呼ばれ、細胞機能の根幹を担う重要な現象です。

タンパク質を「積み木」に見立て、この現象を説明すると、多くの種類の「積み木(タンパク質)」がバラバラに入っている箱(細胞膜)の中で、自然に同じ種類の積み木が一列に並ぶ、というような現象です。人工の小分子においてもself‐sorting現象を制御することができれば、細胞のような柔軟で多彩な機能を有する材料の創出に繋がると期待できます。

しかしながら、天然のタンパク質とは異なり、合成分子は自己認識特性が低く、簡単に異なる分子と混ざってしまうために、self‐sortingさせるのは困難でした。

本研究グループは分子間の相互作用の違いに着目することによってこの課題を解決し、性質の異なる2種類のナノファイバーを形成する分子ペアを発見しました。また、共焦点レーザー顕微鏡を用いることで、これまで不可能であった合成分子におけるself‐sorting現象のリアルタイムイメージングに成功しました。

本研究で得られた知見は、self‐sorting現象への深遠な理解を促進し、細胞のような機能をもった次世代マテリアルの開発への大きな一助として、さまざまな分野への幅広い貢献が期待できます。

図:本研究で用いた分子の構造と自己組織化の模式図

(a) :自己組織化ナノファイバーの形成メカニズムの模式図
(b) :本研究の概要について示した模式図
(c) :本研究で使用した自己組織化ナノファイバーを形成する分子(BPmoc-F 3 , ,Phos-cycC 6 )およびプローブ(OG-BP, Alexa546-cycC 6 )の分子構造

詳しい研究内容について

書誌情報


【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/nchem.2526

Shoji Onogi, Hajime Shigemitsu, Tatsuyuki Yoshii, Tatsuya Tanida, Masato Ikeda, Ryou Kubota and Itaru Hamachi. (2016). In situ real-time imaging of self-sorted supramolecular nanofibres. Nature Chemistry.