海水中のDNA情報で魚群の居場所と規模を明らかに -魚類の量・分布・変動を把握し、漁業へ生かす-

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高橋宏司 フィールド科学教育研究センター博士研究員(現長崎大学)、澤田英樹 同研究員、村上弘章 農学研究科博士課程後期課程学生、堀内智矢 同修士課程学生、鈴木啓太 フィールド科学教育研究センター助教、益田玲爾 同准教授、山本哲史 神戸大学学術推進研究員、南憲吏 北海道大学特任助教、深谷肇一 統計数理研究所特任助教らは、海水中に含まれる魚類のDNA量が周辺に生息する魚群規模を反映していることを明らかにしました。

本研究成果は、2016年3月2日(米国東部時間)発行のオンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

目の前に海の広がるフィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所の地の利と、調査船緑洋丸を活かした成果です。また、これまでの潜水調査で、初夏に湾内でマアジが優占することがわかっていたためにうまくいきました。今後は、さまざまな海域や魚種、環境条件で本手法を応用する予定です。特に、潜水や漁獲等による調査の困難な場所で威力を発揮すると期待できます。

本研究成果のポイント

  • 魚などの生息分布の把握には、これまで多くの時間や費用がかかっていた。
  • わずか1リットルの海水でDNAを分析する環境DNA分析手法を発展させ、DNAの量を測定することで、その海域における魚の分布を定量的に明らかにする技術を開発し、舞鶴湾のどこにどれだけのマアジが生息しているかを明らかに
  • 簡便で低コストなため、長期的な観測手法として有望である。魚類の資源量分布の観測や年ごと、季節ごとの変動の把握などへの応用が期待

概要

海洋の魚などの水産有用種の調査には、従来は網を用いた捕獲や魚群探知機による計測が用いられてきました。しかし、いずれも調査に多大な時間やコストがかかることや、調査結果にばらつきが大きいなどの問題があり、より簡単で正確な測定法の開発が望まれていました。

そこで本研究グループでは、これまでに環境中のDNA情報を利用して、魚の種類を判定する技術を開発しました。今回新たに、海洋中のDNA量を測定することにより、この技術が採水箇所周辺の魚群規模を定量的に推定するのに有効であることを明らかにしました。つまり、DNAの濃度によって、どのような生物種がいるかだけでなく、量も把握できるようになりました。

これまで、このような「環境DNA」を定量する手法は水槽実験や池といった閉鎖的な水域や、河川の短い区間のような水の流れが単純な水域でしか検証されていませんでした。今後、開放系である海洋でもこの手法が用いられるようになれば、有用種の資源量推定や分布推定、またそれらの時間的変動を明らかにすることができ、持続可能な漁業の推進に役に立つと考えられます。

47地点分のサンプルから推定したマアジ環境DNA量の分布

DNA量の分布と魚群探知機で検出した魚の分布を比較したところ、環境DNA量からマアジの分布を定量的に推定できることがわかった。赤い場所ほどマアジの環境DNA量が多く、青くなるにつれて少ないと推定される。白はマアジの環境DNA量が分布しないと推定された範囲

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0149786

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/209937

Satoshi Yamamoto, Kenji Minami, Keiichi Fukaya, Kohji Takahashi, Hideki Sawada, Hiroaki Murakami, Satsuki Tsuji, Hiroki Hashizume, Shou Kubonaga, Tomoya Horiuchi, Masamichi Hongo, Jo Nishida, Yuta Okugawa, Ayaka Fujiwara, Miho Fukuda, Shunsuke Hidaka, Keita W. Suzuki, Masaki Miya, Hitoshi Araki, Hiroki Yamanaka, Atsushi Maruyama, Kazushi Miyashita, Reiji Masuda, Toshifumi Minamoto, Michio Kondoh.
"Environmental DNA as a 'Snapshot' of Fish Distribution: A Case Study of Japanese Jack Mackerel in Maizuru Bay, Sea of Japan"
PLOS ONE 11(3): e0149786, Published: March 2, 2016

  • 朝日新聞(3月3日夕刊 9面)および京都新聞(3月3日 23面)に掲載されました。