石見拓 環境安全保健機構教授と川村孝 同教授、北村哲久 大阪大学医学系研究科助教、清原康介 東京女子医科大学助教らのグループは、市民による胸骨圧迫(心臓マッサージ)のみの心肺蘇生の普及が日本の院外心停止後生存者数増加に寄与することを明らかにしました。
本研究成果は、「Circulation」誌に6月5日付でオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
心臓突然死は、日本で年間7万人と報告される等、世界的にも健康施策上の最重要課題の一つであり、心肺蘇生の普及はAEDの普及と合わせ院外心停止例の救命率向上のカギを握っています。2010年の日本版心肺蘇生ガイドラインでは、心肺蘇生の普及促進を目的に、胸骨圧迫のみの心肺蘇生の教育が推奨されました(従来の人工呼吸付の心肺蘇生が基本で、胸骨圧迫のみの心肺蘇生は入門編として導入)。これは世界的にも先進的な試みで、日本は胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した心肺蘇生普及の先進国であり、今回の検討結果は国家レベルでの胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した心肺蘇生普及の効果を示す貴重な結果です。
概要
院外心停止後の患者に対する最良の心肺蘇生は何かということが2000年以降激しい論争になっています。しかしながら、これまでの研究は個人単位の比較に焦点をあてたものがほとんどであり、地域レベルで市民による胸骨圧迫のみの心肺蘇生の「普及」がどのくらい院外心停止患者の生存者数を増加するのかはほとんど知られていません。そこで日本全域を網羅した国家規模前向き観察研究である総務省消防庁全国ウツタイン記録から、救急隊に蘇生された院外心停止患者の2005年1月から2012年12月まで8年間のデータを用い、院外心停止後の生存に対する国家規模の市民による胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及の影響を評価しました。
結果は、胸骨圧迫のみの心肺蘇生を受けた人の割合は2005年17.4%から2012年39.3%、心肺蘇生全体(胸骨圧迫のみの心肺蘇生もしくは人工呼吸つきの心肺蘇生のいずれか)では34.5%から47.4%と大きく増加していました(両傾向性P<0.001)。また、胸骨圧迫のみの心肺蘇生によって社会復帰したと推計される院外心停止者数(人口1000万人あたり)は2005年の0.6人から2012年には28.3人(傾向P=0.010)、心肺蘇生全体では9.0人から43.6人(傾向P=0.003)へと有意に増加していました(図)。
以上のことから、市民救助者に対する胸骨圧迫のみの心肺蘇生の国家規模の普及が、日本における院外心停止後の社会復帰数増加と関連したと結論づけられました。
市民によって行われた心肺蘇生種別の人口1000万人当たりの社会復帰数の経年変化
詳しい研究内容について
胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及が日本の院外心停止後生存者数増加に寄与
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.114.014905
Taku Iwami, Tetsuhisa Kitamura, Kosuke Kiyohara, Takashi Kawamura
"Dissemination of Chest Compression-Only Cardiopulmonary Resuscitation and Survival After Out-of-Hospital Cardiac Arrest"
Circulation published online before print June 5 2015
- 朝日新聞(6月16日夕刊 7面)、京都新聞(6月12日 23面)、産経新聞(6月12日 24面)、中日新聞(6月12日 32面)、日刊工業新聞(6月17日 17面)および日本経済新聞(6月15日夕刊 14面)に掲載されました。