三木邦夫 理学研究科教授、渡部聡 同特定研究員(現 東北大学多元物質科学研究所助教)、西谷優一 同特定研究員、河島拓未 理学研究科元大学院生らの研究グループは、跡見晴幸 工学研究科教授、立命館大学、東北大学との共同研究で、タンパク質複合体の結晶構造に基づいて、水素の可逆的な酸化反応を触媒するヒドロゲナーゼの機能に必要なニッケルイオンを正確に取り込む仕組みを明らかにしました。
本研究成果は、6月9日午前4時(日本時間)に米国科学アカデミー紀要に掲載されました。
研究者からのコメント
生物が微量金属イオンを正確に取り込む普遍的な仕組みの解明に貢献すること、ならびに水素エネルギー開発のためのヒドロゲナーゼの応用研究に道を開くことが期待されます。
概要
細胞内のタンパク質の約半数は、鉄、亜鉛、銅、ニッケルなどの金属イオンを取り込み、金属タンパク質としてさまざまな生体内反応を触媒しています。これらの金属イオンは、生体内で微量しか存在しないため、各金属タンパク質は、メタロシャペロンと呼ばれるタンパク質の助けをかりて、正確かつ効率的に金属イオンを取り込んでいます。しかし、このようなメタロシャペロンが、どのように金属イオンを効率よく獲得してこれを受け渡すかについては、ほとんど明らかになっていませんでした。
研究グループは、水素分子の可逆的な酸化反応を触媒するヒドロゲナーゼに、正確にニッケルイオンを組み込むHypAと、そのパートナー分子であるATP加水分解酵素HypBについて、これらが一時的に形成する複合体の原子分解能での立体構造を、X線結晶解析によって解明しました。HypAはHypBと複合体を形成することによって、その立体構造が大きく変化し、HypAの分子内でニッケルイオンの結合部位が形成されることが分かりました。その結果、ニッケルイオンに対する親和性が約600倍も上昇し、生体内の微量なニッケルイオンを取り込めるようになることが明らかになりました。またHypAとHypBの複合体の形成と解離は、HypBの触媒するATP加水分解サイクルに伴って制御されていることが分かり、HypAがHypBから解離してニッケルイオンに対する親和性が低下することで、ニッケルイオンがヒドロゲナーゼに組み込まれることが示唆されました。
HypAB複合体の全体構造
詳しい研究内容について
生体内の微量な金属イオンを巧妙に取り込むタンパク質複合体の立体構造を解明
書誌情報
[DOI} http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1503102112
Satoshi Watanabe, Takumi Kawashima, Yuichi Nishitani, Tamotsu Kanai,
Takehiko Wada, Kenji Inaba, Haruyuki Atomi, Tadayuki Imanaka, and Kunio Miki
"Structural basis of a Ni acquisition cycle for [NiFe] hydrogenase by Ni-metallochaperone HypA and its enhancer"
PNAS published ahead of print June 8, 2015
- 日刊工業新聞(6月10日 17面)に掲載されました。