菅井学 医学部客員研究員(福井大学医学部教授)、清水章 医学部附属病院教授らの研究グループは、五十嵐和彦 東北大学医学系研究科教授、竹谷茂 京都工芸繊維大学教授、Dr. Stephen L. Nutt(The Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Melbourne, Professor)、青木耕史 福井大学医学部教授らの研究グループとの共同研究により、活性化B細胞の分化の方向性がミトコンドリア活性に依存していることを見い出しました。
本研究成果は、2015年4月10日18時(日本時間)発行の英国科学誌「Nature Communications」に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
今回見い出した細胞分化制御機構は、活性化B細胞に限定した現象ではなく、さまざまな他の細胞系列でも機能していることが考えられ、こういった観点から細胞の分化を再考することによって、今まで見落とされていた細胞分化の新しい側面を見い出すことが可能になります。これらの発展した研究から得られた知見は、さらに、再生医療などにも貢献することが期待されます。
また、今回私たちが見い出した、ミトコンドリア機能による免疫反応制御機構は、低親和性のIgM抗体を誘導する汎用性ワクチンを開発するためにも重要な発見であり、さらに抗原特異的免疫反応を増強する方法を確立するためにも必要な知見です。したがって、この研究を発展させることによって、新しい免疫療法を支える礎となる知識や、新規免疫療法薬の開発につながる研究が期待出来ます。
概要
細胞分化は一般的にinstructiveな(方向付け)シグナル(サイトカイン等分化の方向性を決めるもの)と、細胞内の確率的な現象によって決定されることが知られています。事実、活性化B細胞の分化方向の決定は細胞自身の確率的な現象で決まっていることが示されています (DuffyらScience 335, 338, 2012)。その一方で、B細胞受容体からの刺激の強さが、形質細胞に分化させるためのinstructiveなシグナルであることも示されています(Ochiaiら Immunity 38, 918, 2013)。しかし実際に、「形質細胞に分化するのか?クラススイッチ組換えを誘導するのか?」を決定している、確率的変化の実態や、instructiveなシグナルの実態は今日までまったく分かっていませんでした。
今回本研究グループは、この分化の方向性を決める分子機構を明らかにしました。活性化B細胞は、ミトコンドリアの活性の違いによって、クラススイッチ組換えを起こしやすい細胞集団と、形質細胞に分化しやすい細胞集団に分けられることを見い出しました。ミトコンドリア活性が高い細胞は、活性酸素種(ROS)の発生が増強した結果、ヘム合成が阻害されていることが分かりました。この細胞では、ヘムによって活性が抑制される転写因子Bach2の機能が維持された結果、クラススイッチ組換え・体細胞突然変異導入が誘導されることが明らかになりました。ミトコンドリア活性の低い細胞では、ROSが少なくヘム合成が促進されるために、Bach2機能が抑制され形質細胞への分化が促進されます。
今回の研究成果は、ミトコンドリアによる細胞分化制御の新しいメカニズムを見い出しただけでなく、さまざまな免疫反応において、適正な抗体産生を誘導するために必要な分子機構の解明と、新規免疫療法薬の開発につながることが期待されます。
二つの抗体産生細胞分化機構の模式図
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7750
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197334
Kyoung-Jin Jang, Hiroto Mano, Koji Aoki, Tatsunari Hayashi, Akihiko Muto, Yukiko Nambu, Katsu Takahashi, Katsuhiko Itoh, Shigeru Taketani, Stephen L. Nutt, Kazuhiko Igarashi, Akira Shimizu & Manabu Sugai
"Mitochondrial function provides instructive signals for activation-induced B-cell fates"
Nature Communications 6, Article number: 6750 Published 10 April 2015
掲載情報
- 中日新聞(4月11日 3面)に掲載されました。