両生類の新興感染症イモリツボカビがアジア起源であることを解明 -グローバル化がもたらす生物多様性への脅威-

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公開日

西川完途 人間・環境学研究科助教、五箇公一 国立環境研究所主席研究員を含む、欧米・アジアの研究グループは、真菌の一種イモリツボカビ菌が原因となる新たな両生類感染症の起源が、日本を含むアジアであることを解明しました。

この成果は、病原菌という目に見えない生物における多様性および地域固有性の重要性を示すとともに、グローバル化が生物多様性にもたらす影響の重大さを示しています。

本研究成果は、米国科学誌「Science」に2014年10月31日に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究では明治期の沖縄産イモリの標本から病原体が確認され、菌のアジア起源を支持する決定的証拠となりました。しかしその標本はヨーロッパの博物館のものでした。京都大学は、爬虫両棲類学の種多様性研究の分野でアジアをリードしていますが、残念ながらそのような古い標本は存在しません。専門の学芸員もおらず9万点を越える標本は研究者の個人的努力で管理されています。

本研究から分かるように、最新の研究が一世紀以上前の自然史標本を用いてなされることがあります。100年以上先を見据えて、研究を継続して行く体制作りが求められています。

ポイント

  • イモリツボカビは、カエルなどの無尾類には寄生せず、有尾類、すなわちイモリやサンショウウオにのみ寄生するとともに、それらに対して高い病原性を示す。
  • 本菌の起源はアジアにあり、アジア産の有尾類とともに数千万年という長い年月を共生している。
  • 本菌は近年になって人為的にヨーロッパに持ち込まれたと考えられ、本菌に対して抵抗力のないヨーロッパ地域の有尾類は、本菌の侵入によって今後壊滅的な被害を受ける可能性が高い。

概要

ヨーロッパの有尾目(イモリ、サンショウウオなどの仲間)の一種マダラサラマンドラが新種の病原体イモリツボカビ菌に感染して、複数の個体群が絶滅の危機に瀕していることが2013年に報告されました(写真)。そこで世界の4大陸から多くの野生両生類サンプルを採集してDNA鑑定を行った結果、イモリツボカビ菌の感染は有尾目のみから、さらにアジアとヨーロッパ産からのみ確認されました。

次に代表的な両生類の種に対して感染実験を行った結果、皮膚上の菌の増殖は、有尾目にのみ観察されました。イモリツボカビに対する反応性を「抵抗性」「耐性」「感受性」「致死性」のレベルに分けたところ、ヨーロッパ産の有尾類の多くが「致死性」を示したのに対して、アジア産の有尾類は「抵抗性」「耐性」もしくは「感受性」を示しました。「感受性」を示したのはアカハライモリ、アオイモリ、ベトナムコブイモリの3種で、これらの種は症状を再発しながら持ちこたえて、あるいは体表から菌が消失しました。 これらのアジアの種がイモリツボカビの病原巣である可能性が示されたと言えます。

分子系統解析の結果、カエルツボカビとイモリツボカビという同属2種の分岐年代は1億1,530万年〜3,030万年前、アジアのイモリが病原巣として進化したのは5,500万年〜3,400万年前からと考えられました。また、150年以上前の沖縄産シリケンイモリの標本からもイモリツボカビが検出されたことからもアジア自然分布仮説が支持されました。

イモリツボカビの分布が地理的に分断されていることから、アジアからヨーロッパへの移入は人為的移送だったと判断されます。アジアのイモリやサンショウウオは毎年大量にペットとして国際的に移送されています。実際にヨーロッパのペットショップで売られていた個体からも陽性反応が確認され、水平感染実験では有尾目のさまざまな種間で本菌は水平感染できることが明らかになりました。


ヨーロッパに広く分布するマダラサラマンドラ。口まわりの皮膚がイモリツボカビ菌により炎症を起こしている。(Ghent 大学(ベルギー)A. Martel氏提供)

詳しい研究内容について

両生類の新興感染症イモリツボカビがアジア起源であることを解明 -グローバル化がもたらす生物多様性への脅威-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1258268

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191082

A. Martel, M. Blooi, C. Adriaensen, P. Van Rooij, W. Beukema,M. C. Fisher, R. A. Farrer, B. R. Schmidt, U. Tobler, K. Goka, K. R. Lips, C. Muletz, K. R. Zamudio, J. Bosch, S. Lötters, E.Wombwell, T.W. J. Garner, A. A. Cunningham, A. Spitzen-van der Sluijs, S. Salvidio, R. Ducatelle, K. Nishikawa, T. T. Nguyen, J. E. Kolby, I. Van Bocxlaer, F. Bossuyt, F. Pasmans
"Recent introduction of a chytrid fungus endangers Western Palearctic salamanders"
Science Vol. 346 no. 6209 pp. 630-631 31 October 2014

掲載情報

  • 産経新聞(10月31日夕刊 10面)および日刊工業新聞(11月14日 19面)に掲載されました。