2014年8月6日
垣塚彰 生命科学研究科教授、池田華子 医学部附属病院准教授らの研究グループは、吉村長久 医学研究科眼科学教室教授、Daito Chemix株式会社らとの共同研究により、VCPという蛋白質のATPase活性に対する阻害剤(KUS化合物)が神経保護効果をもち、網膜色素変性の進行を抑制する効果を持つことを、網膜色素変性モデルマウス(rd10)を用いて明らかにしました。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」誌の電子版(英国時間:8月6日午前10時)に公開されました。
研究者からのコメント
本研究によって、VCP蛋白質のATPase阻害剤として新規に合成されたKUS化合物に網膜色素変性に対する進行抑制効果が認められたことで、現在治療法の無い網膜色素変性に対する治療薬の開発に繋がることが期待できます。さらに、網膜神経の細胞死によって引き起こされる他の眼疾患や神経変性疾患など、他の疾患への応用も期待できます。
また、本研究によりKUS化合物に網膜色素変性の進行を遅延させる可能性があることが判明したため、今後、KUS化合物の医薬品としての開発を目指します。医薬品品質での製剤化、GLPレベルでの動物での安全性試験を実施後、短期間で神経保護効果の判定ができる眼難治疾患を対象とした、臨床研究を数年内に開始する計画です。
概要
網膜色素変性は、日本において中途失明の第3位の原因疾患であり、特に、60歳以下では、視覚障害原因の1位となっています。日本における患者数は1万6,000人~3万2,000人と概算されています。網膜の視細胞(光を受容する細胞)の中で働く遺伝子の異常が原因となり、現在までに40種類以上の遺伝子異常が報告されています。原因遺伝子はさまざまですが、視細胞が変性・脱落することにより、徐々に進行する視野障害・視力障害をきたします。神経成長因子・遺伝子治療・幹細胞移植・人工網膜などによる治療が精力的に試みられていますが、現状では、進行を抑制する根本的な治療法は確立されておらず、厚生労働省から難病に指定されています。
本研究では、視細胞の変性・死滅を予防・抑制することにより病気の進行を食い止める、つまり、神経保護による網膜色素変性の進行抑制という視点から研究を行いました。具体的には、体中の細胞に大量に存在し、細胞内のエネルギー源であるATPを消費する蛋白質(ATPase)の一つである、VCPという蛋白質に着目し、そのATP消費を抑制するような物質(低分子化合物)を新規合成し、その中から、細胞・神経保護活性のあるものを同定、網膜色素変性モデルマウスに投与することで、網膜色素変性の進行抑制効果を確認しました。
図:細胞保護効果の明らかになったKUS化合物、KUS121(左)とKUS187(右)の構造式
詳しい研究内容について
新規神経保護剤により網膜色素変性の進行を抑制することに成功 -難治性眼疾患の進行抑制に期待-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep05970
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189386
Hanako Ohashi Ikeda, Norio Sasaoka, Masaaki Koike, Noriko Nakano, Yuki Muraoka, Yoshinobu Toda, Tomohiro Fuchigami, Toshiyuki Shudo, Ayana Iwata, Seiji Hori, Nagahisa Yoshimura & Akira Kakizuka
"Novel VCP modulators mitigate major pathologies of rd10, a mouse model of retinitis pigmentosa"
Scientific Reports 4, Article number: 5970 Published 06 August 2014
掲載情報
- 京都新聞(8月7日 25面)、産経新聞(8月7日 26面)、日刊工業新聞(8月7日 24面)、日本経済新聞(8月7日 38面)および読売新聞(9月8日 14面)に掲載されました。