2014年7月31日
奥田昇 生態学研究センター准教授、伊藤雅之 東南アジア研究所助教、福井学 北海道大学低温科学研究所教授、小島久弥 同助教、夏復國 台湾・中央研究院博士らの研究グループは、亜熱帯ダム湖において湖水中の浮遊性メタン酸化細菌の群集構造を解明し、酸素濃度の低い深層において脱窒メタン酸化細菌が優占していることを発見しました。
この研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループのオープンアクセス電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
湖沼は、強力な温室効果ガスであるメタンの主要放出源です。メタン酸化細菌は、水中のメタンを湖沼生物の餌源となる有機炭素に変換し、大気中へのメタン放出を抑制する、いわば「湖沼生態系の炭素リサイクル機能」を担います。脱窒メタン酸化細菌は、メタンのみならず湖沼の窒素循環を駆動する微生物として、注目されています。これまで湖沼細菌群集の中でマイナーな存在と考えられてきた脱窒メタン酸化細菌ですが、亜熱帯ダム湖では本群が優占することを明らかにしました。今後、その生態を解明することによって、湖沼生態系の炭素・窒素動態の理解が深まると期待されます。
ポイント
- 亜熱帯のダム湖において湖水中の浮遊性メタン酸化細菌の群集構造を解明
- 酸素濃度の低い深層において、脱窒メタン酸化細菌が優占していることを発見
- メタン動態に大きく影響する脱窒メタン酸化細菌の生態解明に向けた重要な手掛かりを提供
概要
メタンは強力な温室効果ガスであり、淡水湖沼はその主要な放出源の一つです。湖沼に生息するメタン酸化細菌は、湖底で生成されたメタンの大半を消費し、大気中への放出を軽減していると考えられています。従来、湖沼メタン酸化細菌群集は主に二つのグループによって構成されるとされてきました。
本研究ではこれまで知見の無かった亜熱帯湖沼のメタン酸化細菌群集を明らかにするため、台湾のダム湖で調査を実施しました。湖水より収集した微生物からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子による全バクテリア群集の解析を行いました。
その結果、湖沼で通常検出される2グループのメタン酸化細菌に加え、脱窒メタン酸化細菌と呼ばれる別タイプのメタン酸化細菌が検出されました。脱窒メタン酸化細菌は低酸素濃度の深層水から見出され、種レベルでは最も高い頻度で検出されるメタン酸化細菌でした。脱窒メタン酸化細菌の存在は、メタン酸化酵素遺伝子の解析でも確認されました。定量的な解析の結果、脱窒メタン酸化細菌は深層水中の全微生物細胞の16%に達し、最も優占しているメタン酸化細菌であることが確認されました。
本研究により、これまで稀な存在と考えられていた脱窒メタン酸化細菌が微生物群集の主要な構成要素となっている例が初めて示されました。
図:調査地点での湖水環境と脱窒メタン酸化細菌の生息環境の概要。溶存酸素が枯渇し、メタンが供給される水深90m付近(図中着色部)で脱窒メタン酸化細菌が優占していた。
詳しい研究内容について
湖水中でのメタン消費の新たな主役 -亜熱帯ダム湖で脱窒メタン酸化細菌が優占していることを発見-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep05728
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189385
Hisaya Kojima, Riho Tokizawa, Kouhei Kogure, Yuki Kobayashi, Masayuki Itoh, Fuh-Kwo Shiah, Noboru Okuda & Manabu Fukui
"Community structure of planktonic methane-oxidizing bacteria in a subtropical reservoir characterized by dominance of phylotype closely related to nitrite reducer"
Scientific Reports 4, Article number: 5728 Published 25 July 2014