幼児が大人と同じような色の感じ方をすることを発見―子どもの意識経験を評価する新しい手法の開発―

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 赤色を見たときに赤らしさ(「色クオリア」)を感じるように、私たちは様々な色を見て、その質感を感じています。しかし、他の人が同じように色を感じているのかどうかを知ることは簡単ではありません。特に、子どもは大人と同じように色を感じているのでしょうか。この問いは、発達心理学において重要な課題でしたが、子どものクオリアを科学的に調べることが難しく、長らく研究が進んでいませんでした。

 森口佑介 文学研究科准教授、渡部綾一 同研究員、王珏 同博士課程学生、土谷尚嗣 オーストラリア・モナシュ大学(Monash University)教授、Ariel Zeleznikow-Johnston 同研究員、佐治伸郎 早稲田大学准教授、坂田千文 オーストリア・中央ヨーロッパ大学(Central European University)日本学術振興会特別研究員らの国際研究グループは、この問題に、クオリアの構造的な側面に焦点をあてて取り組みました。本研究グループは、色のクオリアを直接調べるのではなく、色と色の関係性から探る方法を開発してきました。例えば、「赤」という色の感じ方そのものだけを調べるのではなく、「赤」が「オレンジ」とどのくらい似ているか、「青」とどのくらい違うかを判断することで、その人の色クオリアの構造を明らかにすることができます。本研究グループは、この考えに基づき、タッチパネルを用いた直感的な課題を開発しました。この課題は、言葉をほとんど必要とせず、3歳児でも簡単に取り組むことができます。

 この新しい手法を用いて、日本の3歳から12歳の子どもと成人、および中国の6歳から8歳の子どもを対象に研究を行いました。子どもの色の名前の理解や使い方は年齢とともに大きく変化することが知られていますが、色の感じ方の構造自体は、3歳児でも大人とほぼ同じであることが分かりました。この結果は、文化による違いもほとんどありませんでした。ただし、一部の色の組み合わせ(例:赤と青)については、年齢による微妙な違いも見られました。本研究は、子どもの意識経験を科学的に調べる新しい方法を提案するとともに、人間の色の経験が普遍的である可能性を示す重要な発見をもたらしました。

 本研究成果は、2025年3月11日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載されました。

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実験結果の概要:スマートフォンを使った実験で、2つの色クオリアの類似性を判断してもらった。それぞれの色の類似性が高いと、図中の色同士の距離が近くなっている。幼児も大人も、PCもスマホも、オンラインも対面も、ほぼ同じような色クオリアの構造が見られた。
研究者のコメント
「意識経験やクオリアは、特に子どもにおいては科学的に検討することが困難であると長らく考えられてきました。本研究はこの難題に挑む新しい試みです。子どもがどのような世界を生きているのか、彼らが世界をどのように認識し経験しているのかという根源的な問いの解明に貢献することで、発達心理学の新たな地平を切り拓くことを目指しています。この研究を通して、子どもの主観的経験への理解を深めることは、教育や子育ての在り方にも重要な示唆を与えるものと考えています。」(森口佑介)
関連リンク 

実験課題の動画:Demonstration of smart phone version of the color similarity experiment for children (Japanese) - YouTube (子ども向け色の類似性実験のスマートフォン版のデモンストレーション)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2415346122

【書誌情報】
Yusuke Moriguchi, Ryoichi Watanabe, Chifumi Sakata, Ariel Zeleznikow-Johnston, Jue Wang, Noburo Saji, Naotsugu Tsuchiya (2025). Comparing color qualia structures through a similarity task in young children versus adults. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122, 11, e2415346122.