2014年7月28日
野田進 工学研究科教授、浅野卓 同准教授、井上卓也 同博士課程学生等は、物体からの熱輻射を超高速に制御することに、世界で初めて成功しました。
本研究成果は、英国の学術誌「Nature Materials」誌の電子版に7月28日(日本時間)に出版されました。
研究者からのコメント
今回の成果は、熱輻射のもつ「幅広過ぎるスペクトル」および「オン・オフに時間がかかりすぎる」という二つの課題を同時に克服することに世界で初めて成功したという点で、非常に重要な成果と言えます。また今回の成果は、「熱輻射」という物体から外部へのエネルギー移動の現象を、時間軸上で高速に制御することが出来るようになったことを意味するため、多くの新しい物理現象の発現にもつながるものと考えられます。
さらに、実用的な視点からみれば、今回実証した狭帯域な熱輻射の高速変調動作は、赤外線を利用した環境・バイオ分野のセンシング、イメージング等の応用において、極めて有用な要素技術になることが期待され、超小型・安価・低消費パワーな分析が実現できると考えられます。
概要
一般に、物体を加熱すると、物体と光の相互作用に基づいた熱輻射と呼ばれる現象が生じ、物体から光が放射されるようになります。白熱電球や太陽などは、まさしく、この現象に基づいて光を放射します。しかしながら一般に、加熱された物体からの熱輻射をオン・オフするためには、物体自体を温めたり冷やしたりする必要があるため、そのオン・オフには相当時間(数秒から速くとも100分の1秒程度)がかかるという問題がありました。
そこで今回、同研究グループは、物体の温度を上げたり・下げたりするのではなく、物体と光の相互作用そのものを電気的に変化させることにより、熱輻射を超高速に制御するという全く新しい方法を見出しました。その結果、物体からの熱輻射のオン・オフ時間が、従来の6000倍以上も高速に出来るようになりました。この成果は、物理的に大変興味深い発見であるだけでなく、各種の環境モニターやバイオ分析用の新しい赤外線光源の実現にもつながり、さまざまな新しい応用をもたらすものと期待されます。
図: (a)電圧により輻射パワーを変化させることができる熱輻射光源の模式図、(b)量子井戸内に電子が存在する場合(左)と存在しない場合(右)の熱輻射発生の模式図。量子井戸には、離散化された二つのエネルギー状態が存在し, 電子は加熱されるとこの二つのエネルギー状態間の遷移を繰り返す。(c)PNダイオードに電圧を印加した際の量子井戸内の電子密度の変化。電圧を印加すると、量子井戸に存在する電子数が減少する。(d)作製光源から生じる熱輻射パワーが印加電圧により変化する様子
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nmat4043
Takuya Inoue, Menaka De Zoysa, Takashi Asano and Susumu Noda
"Realization of dynamic thermal emission control"
Nature Materials Published online 27 July 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(7月28日 22面)および日本経済新聞(7月29日 14面)に掲載されました。