2014年7月17日
関口雄一郎 基礎物理学研究所特任助教と和南城伸也 理化学研究所理論科学連携研究推進グループ研究員らの研究チームは、地球上に存在する金やウランなど鉄より重い元素が、中性子星合体によってつくられたものである可能性が高いことを明らかにしました。
本研究成果は、米国の科学雑誌「The Astrophysical Journal Letters」(7月10日号)に掲載されました。
研究者からのコメント
金やウランなどの重い元素の起源、重力波、中性子星合体。一見関係のなさそうなこれらは、実は重要な関連を持っています。以前より、連星中性子星の合体は重力波の発生源として注目されてきました。重力波は、岐阜県の神岡鉱山に建設中の「KAGRA(かぐら)」などの次世代重力波検出装置によって、近年中にも直接観測される可能性があり、100年来のアインシュタインの宿題が解かれるかもしれない重大な時期にあります。
重力波の直接検出では、付随する複数のシグナルが同時に観測されたほうが信頼性も高まります。重力波に付随する電磁波シグナルの有力候補の一つが、本研究で取り扱った「rプロセス」でつくられた重い放射性元素の崩壊熱をエネルギー源として光り輝く、「rプロセス新星」なのです。もし重力波源の方向にrプロセス新星が発見されれば、中性子星合体がその発生源であり、さらに金やウランなどの重い元素の起源であることも示す決定的な証拠となるとともに、重力波検出にとても重要な情報になるわけです。
そのために、私たちは、中性子星合体による重元素の合成量を正確に予測するための研究を、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を用いた数値シミュレーションを行って進めています。
ポイント
- スーパーコンピューターによる中性子星合体現象の数値シミュレーション
- 中性子核融合によりつくられる元素の組成が太陽系の重元素分布と合致
- 従来の研究で予想されていた中性子の割合とは大きく異なる結果に
概要
水素やヘリウムは宇宙の始まりのビッグバンにより生成され、それより重い鉄までの元素は恒星内部の核融合により生成されます。また、レアアース、金やウランなど鉄よりさらに重い元素は、大量の中性子の核融合により生成されると考えられています。しかし、その大量の中性子の核融合がどのような天体現象によるものなのかについては、長い間明らかにされていませんでした。それは中性子星合体によるものであるとする説がありますが、これまでの研究によると、放出される物質のほとんど(90%以上)が中性子であるために非常に重い元素だけがつくられると考えられ、太陽系や他の恒星で観測される重元素組成を説明できないことが問題となっていました。
そこで本共同研究チームは、東京大学などのスーパーコンピューターを用いて、一般相対性理論とニュートリノの影響を考慮した場合の中性子星合体の数値シミュレーションを行いました。その結果、中性子の一部がニュートリノを吸収して陽子に変わるため、中性子の割合が60~90%程度にまで減少することが分かりました。この数値シミュレーション結果をもとに元素合成の数値計算をしたところ、観測による太陽系の重元素分布とほぼ一致していました。これにより、今まで明らかにされていなかった金やウランなどの鉄より重い元素の起源が中性子星の合体である可能性が高いことが示されました。
図:スーパーコンピューターによる中性子星合体の数値シミュレーション
左は二つの中性子星の合体の瞬間、右は合体から8ミリ秒後の様子を表す(距離のスケールの違いに注意)。上は物質の密度の対数値(g/cc)、下は物質中の中性子の割合(%)を表す。右下の黄色からオレンジの渦状部分で金やウランなど、青から水色の部分で銀やレアアースなどがつくられる。
詳しい研究内容について
金やウランなどの重い元素は中性子星の合体で作られた可能性が高い -鉄より重い元素の起源を数値シミュレーションで解明-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1088/2041-8205/789/2/L39
Shinya Wanajo, Yuichiro Sekiguchi, Nobuya Nishimura, Kenta Kiuchi, Koutarou Kyutoku, and Masaru Shibata
"PRODUCTION OF ALL THE r-PROCESS NUCLIDES IN THE DYNAMICAL EJECTA OF NEUTRON STAR MERGERS"
The Astrophysical Journal Letters, 789(2): L39, 2014 July 10
掲載情報
日刊工業新聞(7月18日 23面)に掲載されました。