2014年6月27日
北川進 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長/教授、樋口雅一 同特定助教らの研究グループは、水滴を弾き、一方で水蒸気や有機分子を取り込むことが可能な多孔性構造体の開発に成功しました。この成果は、さまざまな分子を取り込むことが可能な超撥水性材料の新しい合成手法として期待されます。
本研究成果は、2014年6月27日正午(日本時間27日午後8時)に独オンライン科学誌「Angewandte Chemie」で公開されました。
研究者からのコメント
今回、本研究グループが開発した手法によって、フッ素原子および長鎖アルキル基を用いず、ベンゼン環の配列制御された表面を持つ多孔性材料が超撥水性を示すことが明らかとなりました。
今後、この技術を利用した、高効率な気体分離膜や水と空気からメタノールなどのエネルギー貯蔵分子の合成が可能な材料開発への応用などが期待されます。
概要
材料表面が水滴を弾く性質(超撥水性)は、ガラス表面や外壁などに超撥水性をもつ素材をコーティングすることによって、清掃が不必要になるなど、私たちが生活する上で役立つ機能として広く知られています。そして、この超撥水性は、特定の有機分子(トリフルオロメチル基または長鎖アルキル基など)を使用することや、材料表面の微細な加工による凹凸によって達成することができます。ところが、これまでの方法では、超撥水性材料が気体や有機分子などを吸着する設計指針はありませんでした。
今回の研究では、有機物と無機物からなる「多孔性金属錯体(PCPまたはMOF、以下「PCP」という)」というナノ細孔をもつ結晶性の多孔性材料を用いました。従来のPCPは、水滴をはじくどころか、水と接触すると構造崩壊が起こります。PCPの原料の有機物にフッ素原子や長鎖アルキル基を使用すると超撥水性をもち、吸着能のあるPCPを合成することは可能でしたが、穴が少なくなってしまうという問題がありました。そこで本研究グループは、フッ素原子も長鎖アルキル基も使わず、PCPの粒子表面にあるベンゼン環の配列を精密に制御することによって、超撥水性を示すPCPの開発に成功しました。
本成果により、フッ素原子および長鎖アルキル基を用いない新たな超撥水性材料の合成方法としてベンゼン環の配列制御された表面を提案し、さらに細孔構造も構築した細孔性骨格(PCP)とすることにより、気体や有機分子を取り込む材料の開発に成功しました。この新たな合成手法により、水中で気体を自在に扱う技術への応用などが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/anie.201404306
Koya Prabhakara Rao, Masakazu Higuchi, Kenji Sumida, Shuhei Furukawa, Jingui Duan, and Susumu Kitagawa
"Design of Superhydrophobic Porous Coordination Polymers through the Introduction of External Surface Corrugation by the Use of an Aromatic Hydrocarbon Building Unit"
Angewandte Chemie International Edition published online: 27 JUN 2014
掲載情報
- 京都新聞(7月3日 25面)、中日新聞(7月6日滋賀版 15面)、日刊工業新聞(6月30日 23面)、日本経済新聞(7月1日 18面)、読売新聞(6月30日 2面)および科学新聞(7月18日 4面)に掲載されました。