新奇層状ペロブスカイト圧電体材料の発見 -層状構造と酸素八面体回転により破られる中心対称性-

ターゲット
公開日

2014年4月18日

赤松寛文 工学研究科研究員、藤田晃司 同准教授、久家俊洋 同大学院生、田中勝久 同教授らの研究グループは、田中功 同教授の研究グループ、Gopalan 米国ペンシルバニア州立大学教授の研究グループ、Rondinelli 米国ドレクセル大学准教授の研究グループと共同で、NaRTiO4(Rは希土類元素)の組成をもつ一連の層状化合物が従来とは異なるメカニズムで圧電性を示すことを、実験と理論計算の手法を併用して明らかにしました。このことは、圧電体あるいは強誘電体の新しい物質設計指針を与えるだけでなく、非鉛圧電体材料を使ったデバイス応用にも大きな波及効果をもたらすと期待されます。

本研究成果は、米国物理学会発行の学術雑誌「Physical Review Letters」誌に掲載されることになりました。

研究者からのコメント

左から藤田准教授、田中教授

本研究の成果として、ペロブスカイト類似物質における酸素八面体回転のメカニズムに基づいて多数の圧電体を発見することができました。これらはまだ氷山の一角で、将来的には新規圧電体・強誘電体が発見される可能性があります。

圧電材料の用途は最先端の電子機器から汎用の電子機器まで多岐に及んでいますが、現在の電子デバイスに組み込まれた圧電材料は主成分として鉛(Pb)を含んだ圧電セラミックス材料Pb(Zr, Ti)O3であり、環境に対する負荷が大きいものです。今回発見した物質はPbを含んでおらず、非鉛圧電体材料開発につながります。現状では圧電体としての性能は低いため、今後は巨大な圧電応答を示す物質系の開拓を行う予定です。

ポイント

  • 従来とは異なったメカニズムに基づく新奇圧電体材料(ぺロブスカイト関連化合物)の発見
  • 層状構造と酸素八面体回転に由来する結晶構造の中心対称性の破れを実験と理論の両面から解明
  • 非鉛圧電体材料の開発研究への貢献

概要

圧電材料に力を加えると電圧が発生し、逆に電圧を加えると材料が変形します。このため、圧電材料は機械的エネルギーと電気的エネルギーの相互変換に用いられ、センサーやアクチュエーターとして実用化されています。その用途は、精密な位置制御を必要とする産業機器(半導体露光装置の極微動用ステージや走査型トンネル顕微鏡の探針駆動機構など)から身近な電子機器(携帯電話、インクジェットプリンター、デジタルカメラなど)まで、多岐に渡っています。

実用的な圧電材料の多くは、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型構造をもつ強誘電体です。代表的なものとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr, Ti)O3)などがあげられます。そのようなペロブスカイト酸化物強誘電体では、チタンと酸素の共有結合性や鉛の非共有電子対といった特定の元素に特有の性質のため結晶構造に中心対称性の破れが生じ、これが強誘電性・圧電性をもたらします。このような性質をもつ元素は限られるため、ペロブスカイト酸化物の中で中心対称性をもたない化合物は数%程度に留まっています。

本研究グループは、NaRTiO4(Rは希土類元素)の組成をもつ一連の層状ぺロブスカイト酸化物が上記とは異なるメカニズムによって圧電性を示すことを、大型放射光施設SPring-8の粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)でのX線回折測定、光第二高調波発生測定、ピエゾ応答力顕微鏡観察、ならびに第一原理計算により明らかにしました。これらの酸化物はこれまで、中心対称性をもち、圧電性を示さない構造をとると報告されていましたが、本研究において、実際にはこれらの酸化物が報告とは異なる酸素八面体回転パターンを示し、その回転パターンの「微妙な違い」が中心対称性を破り、圧電性を生むことを突き止めました。従来のぺロブスカイト強誘電体において中心対称性の破れをもたらす特定の元素に特有の構造歪みとは対照的に、酸素八面体回転は、ペロブスカイト関連化合物において最もありふれた構造歪みです。したがって、本研究成果は、圧電体あるいは強誘電体の新しい物質設計指針を与えるだけでなく、非鉛圧電体材料を使ったデバイス応用にも大きな波及効果をもたらすと期待されます。

図:(a)従来報告されていた結晶構造(中心対称性あり)と(b)今回の研究で報告した結晶構造(中心対称性なし)。(a)と(b)では異なるBO6酸素八面体回転パターンを示し、(b)のパターンが中心対称性の破れをもたらす。

詳しい研究内容について

新奇層状ペロブスカイト圧電体材料の発見 -層状構造と酸素八面体回転により破られる中心対称性-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.112.187602

Hirofumi Akamatsu, Koji Fujita, Toshihiro Kuge, Arnab Sen Gupta, Atsushi Togo, Shiming Lei, Fei Xue, Greg Stone, James M. Rondinelli, Long-Qing Chen, Isao Tanaka, Venkatraman Gopalan, and Katsuhisa Tanaka
"Inversion Symmetry Breaking by Oxygen Octahedral Rotations in the Ruddlesden-Popper NaRTiO4 Family"
Physical Review Letters 112(18), 187602 Published 7 May 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(4月22日 24面)に掲載されました。