2014年4月15日
鈴木智子 経営管理研究部特定講師は、日本社会における「自分へのご褒美」消費の普及に関する研究を行い、イノベーションの普及におけるコミュニケーション活動の重要性を示唆しました。
これまでのイノベーション研究では、技術発明や新しいアイデアの創出など、その創造過程に注目されてきましたが、本研究ではイノベーションのもう一つの側面である普及過程に焦点を当てています。
研究者からのコメント
イノベーションは数多く行われていますが、その多くが失敗に終わってしまっています。中でも、日本企業は技術開発力が決して低くないにも関わらず、それを競争力に結び付けられていないといわれています。その理由の一つに、イノベーションの創造過程に注目が集まり、普及過程がどちらかというと重視されてこなかったことが考えられます。
せっかくの素晴らしい技術や良い商品も、お客様にその価値を理解してもらえず、購入して頂けなければ、失敗に終わってしまいます。イノベーションは特に、その新しさゆえ、不確実性を持っています。社会にとって、このイノベーションはどうして真っ当なのか(道徳的正当性)、お客様にとってどんな価値をもたらしてくれるのか(実践的正当性)といったことを、しっかりと伝えていくことがイノベーションの成功には必要だと思われます。
本研究では、イノベーション普及の正当化プロセスにおけるコミュニケーションの役割について検討しましたが、今後は他の要因についても研究し、イノベーション普及のメカニズムの解明を行い、世界経済の発展に貢献していきたいと考えています。
概要
イノベーションの重要性については、政府を始め、多くの研究者や実務家によってすでに指摘されているとおりです。これまでのイノベーション研究では、技術発明や新しいアイデアの創出など、その創造過程が注目されてきましたが、真の意味でイノベーションを成功させるためには、どのようにイノベーションを社会に普及させていくかという点についても考える必要があります。そこで、本研究ではイノベーションの普及過程に焦点をあて、とくにイノベーションの普及者が発信するコミュニケーション・メッセージがもたらす影響について検討しました。
本研究では、「自分へのご褒美」消費の変遷に関する歴史的分析とコミュニケーション・メッセージの内容分析を行い、特に1987年から2009年といった約20年間の「自分へのご賞美」消費の形成において、企業やメディアが発信したコミュニケーション・メッセージを分析しました。
その結果、本研究から見えてきたのは、イノベーションを社会に普及させるためには「正当性」を与えることが重要であるということ、また、正当性にはさまざまなタイプがありますが、イノベーションの普及段階によって必要とされる正当性のタイプが異なるということも分かりました。具体的には、初期においては、イノベーションが「真っ当である」という評価(道徳的正当性)と、イノベーションを採用することで価値が得られるという評価(実践的正当性)が、そして後期には、イノベーションが普通のことであるという評価(認知的正当性)が重要になります。そしてこれら正当性を獲得する上で、コミュニケーションによるフレーミング活動が有用であることも示唆されました(図)。
図:イノベーション普及の段階、正当化、そしてフレーミング戦略(注:イノベーション普及の段階は、ロジャーズ([1962] 2003)の採用者カテゴリーを採用している。)