「大学と社会が拓く未来の知」の第5回目として、「歌川広重の声を聴く -風景への眼差しと現代の都市」をテーマに「丸の内de夏の大学トーク」を京都アカデミアフォーラムin丸の内にて開催しました。
当イベントは、本学と、最新の研究成果を書籍の形で社会に発信している京都大学学術出版会との共催および読売新聞社・活字文化推進会議の後援により、講演と討論の形で実施したもので、大学の教育・研究の成果を広く一般の方々と共有することを目的としています。今回は約80名の参加がありました。
はじめに横山陽一 総務部次長より開会の挨拶があり、引き続き行われた前半の部では、阿部美香 専修大学文学部助教が、「歌川広重の声を聴く -その風景観を考え、思いと願いを掬い取る」と題して、歌川広重がその作品に込めたメッセージと、そこから紐解く今後の都市づくりについてをキーワードに講演を行いました。続いて、中嶋節子 人間・環境学研究科教授が、「歴史都市における風景の発見・保全・創造 -都市政策の対象としての京都の風景」をテーマとして、「京都」の例を取り上げ、近代における景観修復を事例にして、風景をめぐる議論の問題点、特に風景が生活から切り離されてしまった問題について講演を行いました。
続く後半の部では、前の2名の講演を受けて、陣内秀信 法政大学特任教授が自身の専門であるイタリアにおける「テリトーリオ」概念を紹介しながら、風景を考える際に、都市とその周辺を一体のものとして捉えることの重要性について言及しました。また、スペシャルゲストとして、川田順造 東京外国語大学名誉教授が東京・深川で生まれ育った自身の体験と、同じ深川周辺に住んだ広重・国芳等の浮世絵師の活躍を紹介しながら、「川向こう」呼ばれた場所の創造性についてコメントしました。
その後、講演者3名と鈴木哲也 京都大学学術出版会専務理事・編集長による討論を行いました。討論では、「川向こう」すなわち都市的なものと農村的なものの接合面にこそ重要なものが隠されているというテーマで議論が進み、結論として、私たちは「風景」を議論するとき、得てして美しさや華やかさばかりに着目するが、「川向こう」に潜む暗黒面も含めた「風景」の重層性にこそ面白さがある、という論点が明らかになりました。
最後に鈴木理事より挨拶があり、「このように、物事の多様な側面に着目するのが大学での学問であり、その立場から社会に提案するのが大学の役割であると考えている。こうした取り組みをこれからも続けて行きたい」と結びました。