第25代総長 松本 紘
歳寒松柏たる気概を胸に
新年あけましておめでとうございます。
総長就任以来、大学を取り巻く環境は厳しさを一層増してきておりますが、椿のような華々しさを求めず、歳寒においてもその凛とした姿を示す松柏に倣い、歳寒松柏たる気概を胸に京都大学のあるべき姿を実現するよう、必要な改革を進めていきたいと思います。
年頭にあたり、昨年1年間の成果と今後の取り組みについて簡単に紹介し、京都大学の教職員、学生および関係者の皆様と意識を共有し、本年もともに改革を進めていきたいと思います。
(1)教育に関する取り組み
昨年は、文部科学省「国際化拠点整備事業」グローバル30の本格的展開、初年次教育の実施、教育制度改革、研究科横断型教育に重点的に取り組みました。また、学位授与の方針を策定しました。これによって、入学者受け入れの方針、教育課程編成・実施の方針に併せ、重要な三つの教育方針が整備されることにより、教育の質保証が一層確かなものとなりました。また、社会的な関心が高い教養・国際教育の充実・改善に向けて、全学部で学キャンパスミーティングを開催し、学生目線も取り入れた全学共通教育の見直しを行っていきます。くわえて、教養基礎教育、国際教育、学際横断教育、キャリアパス共通基礎教育を軸に、学部専門課程に接続した全学共通教育を企画・推進する全学機関としての高等教育研究開発推進機構の機能を改革・充実させていきます。
教育を支える施設面では、新寮の建設と吉田寮の立替えに関する全体計画案を吉田寮自治会に提示し、吉田南地区の再整備計画の進展を図りました。5月以降は、引継団交を自治会側が要求し、新寮建設のための交渉は中断しましたが、7月23日に最終的な確約を交わし、寮問題の進展に一定の道筋をつけました。この道筋に沿って、吉田寮の老朽化対策・新寮建設のための合意に向けた話合いを継続しています。そして、吉田寮の新寮建設計画を全学的な課題ととらえ、その具体的な実現に向けて進展を図っていきます。また、西部構内に課外活動棟を完成させ、学生公認団体の課外活動の支援を充実させました。同時に、カウンセリングセンター、身体障害学生支援室、キャリアサポートセンター、さらには保健管理センターなどの連携をより一層緊密にしていきます。これによって、学業、就職、人間関係など学生生活全般にかかわる様々な問題を複合的に捉え、問題解決のための情報を学生に向けて発信するとともに、学生からの相談に積極的に対応し、学業・生活全般をより総合的に支援する組織ネットワーク体制の充実を図ります。
教育を支える経済的支援面では、国から運営費交付金で措置される授業料等免除枠7億2千万円に加え、本学独自の年間1億円の実施枠を追加し、学生に対する経済的支援の拡充を図りました。
(2)研究に関する取り組み
昨年4月に本学の研究所として第14番目となる「iPS細胞研究所(CiRA)」を開所し、iPS細胞の基礎・応用ならびに実用化に向けた研究の環境整備を行いました。さらに、エネルギー理工学研究所と野生動物研究センターの共同利用・共同研究拠点化を達成しました。また、名誉教授の皆様のご協力を得て科学研究費補助金申請書類のアドバイス制度を始めました。その結果、アドバイスを受けた研究者から大変有意義との評価をいただいたところです。さらに、関係府省庁、資金配分機関からの情報収集を一層活発に行い、新たな企画提案を行う研究ユニットとして学際融合教育研究推進センターを発足させました。そのうえで、分野ごとの研究ユニットを組織化し、関係府省庁や資金配分機関での情報収集力を強化し、企画提案活動の充実を図ります。また、昨年9月には白眉プロジェクトにおいて、次世代研究者育成センターに採用する第2期生19名を内定したところです。
(3)社会連携強化の取り組み
現在、大学全体の同窓会組織の構築と活動の活性化、大学と卒業生との関係強化、年1回のホームカミングデーの実施、国内外における同窓会の設立援助などを通して、卒業生による大学の支援体制作りを行っています。京都大学基金については、広報内容を一新し、京都大学への恒久的な支援風土の醸成、寄附をしやすい環境整備を図っております。卒業生が自身の動向をWeb上で大学データベースに登録できる卒業生名簿「京大アラムナイ」システムを昨年9月に供用開始しました。今後は、卒業生の一層の情報交換に活用できるよう機能向上に努めます。また、大正14年に建てられた楽友会館は、昔の面影を残した形で再生・改修され、昨年10月に再オープンすることができました。皆様の積極的な活用をお願いいたします。
本年は一層の「京都大学らしさ」をアピールし、大学支援者との連携を強化するため、キャンパスマップなど新しい視点による戦略的広報媒体を作成し情報発信を行っていきます。また、京都大学基金については、基金の目的・目標額を定めて新たな戦略のもとでの募集活動を活発化させます。
(4)国際化に向けて
国際貢献の一環として、昨年6月には日本の大学が協力し、JICA、エジプト政府との共同で、アレクサンドリアにE-JUST(Egypt-Japan University of Science & Technology)が開所されました。京都大学もその主要メンバーとして化学と材料工学の講義を開始しました。9月にはベトナム国家大学ハノイ校内に共同連絡事務所VKCOを、10月から山科に新留学生寮「みささぎ分館」を開設しました。
研究交流の一環として、昨年は二つの京都大学国際シンポジウムを中国西安と名古屋で開催し、本学の研究成果を生かした情報発信を行いました。さらに、本学が参加するAPRUとAEARUの二つの国際大学連合でも積極的な役割を担い、昨年には生命科学のAPRUシンポジウムを京都で開催し、本年には「漢字」を巡るAEARU国際シンポジウムを開催することを企画しています。
(5)大学運営に関する取り組み
昨年は「第2期中期目標・中期計画」を策定し、文部科学大臣の認可を受けました。
本年は、各種の全学委員会の点検・整理・統合を進めることで教員の負担軽減を図りたいと考えています。また、「勤勉手当や特別昇給候補者選定の基本的考え」の明確化を進めていきます。さらに、本学の発展や名声向上に寄与した者を表彰する制度を確立し、新たなインセンティブを創出することで、教職員が本学の発展のためにより一層尽力でき、それによって報われる仕組みを作りたいと考えています。同時に、大規模な交付金削減などの外的変化にも対応できる、しなやかな教員定員管理や組織運営のあり方を見定め、実施体制を確立することも課題として取り組んでいきます。
- 事務組織改革並びに人事制度に関する取り組み
昨年は、事務効率化と職員のモチベーション向上のために、事務改革大綱と事務改革アクションプランを策定し、順次実行に移してきました。現在は、本年4月実施を目指し、各種施策を速やかかつ実効的に実施するための執行部ならびに本部事務の新体制を構築し、大学の意思決定プロセスと運営の効率化・簡素化、業務や会議運営の改善を一層進めていきます。
定年制度に関しては、昨年3月に、教員について、平成22年度の定年者は64歳、25年度以降の定年者は65歳を定年とすることを定めました。ただし、将来の運営費交付金の削減状況によっては、今後これら定年制の運用について見直す必要が出てくる可能性があります。また、非常勤職員は連続5年の雇用で契約終了と定められていましたが、当該の職が必要であると認められた場合は、公募を経て選考を行い、その結果最適任であると認められた場合に限り5年雇用終了者であっても新たな職員として雇用できるようにしました。また、多様な人材確保を可能とするよう、教員と職員の間に第三の職種として専門的な職務に専念する中間的職種(専門業務職)を設けました。まず手はじめに、知財担当職員(弁護士資格保有者)、貿易安全保障管理担当職員を採用しました。加えて、学内非常勤職員から職員に登用するための新しい試験制度を作り、昨年11月に第1回試験を実施しました。 - 財務に関する取り組み
昨年は、第2期中期目標計画の第1年次として、主体的、効率的な大学運営を行うため、「京都大学重点事業アクションプラン」を見直し、「京都大学第2期重点事業実施計画」を策定し、戦略的、重点的に事業を実施しました。さらに、「部局運営活性化経費」を新たに設け、教育研究の更なる活性化につながる各部局の特色ある取組を支援しています。また、国の財政事業が厳しい中、今後の大学運営を考える学内検討会を設け、検討を開始しました。
本年は上記重点実施計画、部局活性化経費の見直し、充実等を行い、全学的により戦略的、重点的な事業実施に努力していきます。また、厳しい財政事情の継続が予想される中、経費の削減、予算の効率的配分はもとより、新たな財源獲得に向けた検討・努力を行い、大学の財務体質をより強化していきます。 - 施設整備に関する取り組み
「京都大学耐震化推進方針」に基づき、耐震化、機能強化に努め、今年度末には、耐震化率85%達成の予定です。新たな施設としては医学部附属病院「積貞棟」(寄附事業)を整備しました。
本年は、全学共用スペースとして北部構内に建設中の「北部総合教育研究棟」が3月に完成予定、「時計台周辺環境整備」は5月完成に向け進行中です。桂キャンパスでは、平成24年度完成を目指し、工学研究科物理系施設整備事業(PFI事業)を実施しています。また、全学的に温室効果ガス削減を目指した省エネルギー対策にも積極的に取り組んでいきます。
施設整備と関連し、「安全・安心なキャンパス」の構築を目指し、本学における防災と防犯を集約して行う事務組織として、本年4月に「防災・防犯センター」の設置を計画します。同時に、キャンパスの在り方について長期的な視点から検討を行い、キャンパスマスタープランの策定作業を進めていきます。
(6)むすびに
国家の財政健全化にむけての中期財政フレームから示唆された運営費交付金の大幅な削減は、本年はひとまず回避される見込みです。このことは、パブリックコメントにご協力いただいた教職員、学生、ならびに大学の現状に耳を傾けていただいた関係者各位のご尽力によるものです。しかし、この削減回避をもって、大学がその社会的意義を認められたと慢心してはなりません。むしろ、大学は世界的に熾烈な競争の中で社会から負託を受けた社会的な機能をより効果的に果たすために、一層改革にはげむことを求められていると考えるべきであると思います。本学全体の機能発揮の桎梏として何があるのかを明らかにし、それを取り除くように大学全体で考え、改善を進めていきたいと思います。
総長就任以来、我が国および人類の将来にとって、大学は知の淵源であり、衍沃な大地の如く、そのあるべき姿を保ちうる限り、永遠に枯れることなく人材と知恵を生み出しうる土壌のようなものであるとの「大学土壌論」を紹介してきたところですが、その土壌を一層豊かなものとするためのリーディング大学院構想の実現などの改革を本年も一層着実に進めていきます。この改革には、京都大学の教職員、学生および関係者の皆様のご理解とご協力が何にもまして必要です。一層のご支援をお願いするとともに、皆様のご多幸をお祈りし、年初の挨拶とさせていただきます。