平成20年度京都大学総長賞 挨拶 (2009年3月13日)

第25代総長 松本 紘

当日の様子

 皆さん、本日は京都大学総長賞の受賞おめでとうございます。この賞が創設されて今年で4年目ですが、私が総長に就任してからは初めてということで、どのような方が推薦されるのかな、と楽しみにしておりました。多くのユニークな、そして非常に優秀な個人・団体の推薦をいただきまして、その中で選ばれた今日この場に来られている皆さんにお会いできることを嬉しく思います。

 まず、今回受賞された方々の受賞理由を一見して思いますことは、専門の学業以外でも活発に活動をされている方が非常に多いということです。私は昨年10月の総長就任挨拶の中で全人教育の重要性について述べました。深い教養と高い識見を併せ持つ人間力の涵養がどのような分野においても社会で活躍するためには必要不可欠であるからです。そしてそれには大学の講義や研究のみならず、若い時に多くの人に出会い、異分野にまたがる友人ネットワークを築くことが肝要と考えます。幅広い知識と教養が人格にも研究にも深みを与えるからです。今日受賞されました皆さんの中には異分野交流、研究成果の社会還元という活動をされている方が多くおられますし、学業と課外活動の両立を高いレベルで達成されている方もおられます。これはまさに先の教育方針の具体的な形であり、本学の掲げる理念である「対話を根幹とした自学自習」に適うものです。

 人間・環境学研究科の北山聡佳さんは、第13回全日本高校・大学生書道展で優秀な成績を収められました。これは北山さんが長年に渡り研鑽を積んできた成果であるとともに、本学大学院においては東洋の文字学を研究されるなど、研究と実作の高度な融合が果たされている結果であると評価いたしました。実は本日の表彰状の毛筆書きは北山さんに依頼して書いていただきました。快くお受けいただいて感謝しておりますとともに、作品を目の前にして大変感心いたしました。
  自然科学縦横無尽実行委員会は、平成18年に発足以来、3回にわたり理学系異分野交流会を開催しています。この間、他大学からの講演・ポスター発表参加者など、分野や大学の枠を超えた交流が図られてきました。研究で得られた知見を専門外の方に発表し、また自分の専門以外の知識を積極的に吸収しようという姿勢は、皆さんの研究をより大きく育てるものと期待されます。
  医学研究科の永井裕崇さんは、研究発表が国内学会でも国際学会でも評価され、2つの素晴らしい賞を受賞されました。また、受賞もさることながら、通常6年で卒業して医師を目指す学生が殆どである医学科において、4年次で一旦修了し博士課程に進学、そして初年度にこのような成果を挙げられたことは、大多数とは異なる進路を自ら選び取る中で精進し、成果に結びつけるという大変結構なことと思います。
  理学研究科の大井修吾さんは、研究活動に打ち込みながらも体育会柔道部の監督として後進の指導にあたるなど、活躍されています。もちろん本業の研究面でも大変優秀であり、本学柔道部の文武両道の伝統を見事に受け継いでおられます。昨今、学生の体育会離れが進んでいると言われますが、大井さんの活躍は後進にも勇気を与えるものと思います。
  京都大学リサイクル市実行委員会は、20年以上前から卒業生の不要物品を廃棄処分せずに新入生に譲り渡す活動を続けてこられました。今でこそ「もったいない」という言葉や環境問題が一般に認識されるようになりましたが、物を大切にするという最も基本的な事を早い時期から行動で示している団体です。
  井戸端サイエンス工房は、科学とは専門家だけのものではなく全市民に開かれた知的な楽しみであることを再認識させてくれる活動です。地球社会への貢献や社会・地域に開かれた大学の具体化であり、今後ともこのような活動が大きく広がっていくことを期待します。
  医学研究科の西山知佳さんは、心肺蘇生法教育プログラムの開発と普及に取り組まれています。優秀な研究内容と、一般市民への教育の融合により社会貢献度が非常に高く、1人でも多くの人命救助に繋がる活動であると評価されました。
  理学研究科の矢野真理子さんは、科学研究の成果や関連事項を広く一般に伝えるサイエンスコミュニケーターとして活発に活動されました。ノーベル賞を受賞された益川敏英先生が初めて科学に興味を持ったきっかけは、子供の頃にお父さんから聞いたいろんなお話であったと述べられているように、このような活動によって科学に興味を持った子供がやがて素晴らしい研究者に育っていくのではないかと期待しています。

 京都大学総長賞は本学学生の中で、学業・課外活動・社会活動等において特筆すべき業績を挙げた学生を讃えるとともに、他の学生の範としてポジティブな刺激を与え、魅力・活力・実力ある京都大学創りに向けて広く啓発すべく創設された表彰制度です。今日京都大学総長賞を受賞された皆さんのより一層のご活躍を祈念するとともに、学生に限らず皆さんの活躍に刺激を受けた人がどんどん出てくることを期待してやみません。
  本日は誠におめでとうございます。

関連リンク

平成20年度 「京都大学総長賞」表彰式を挙行しました。(2009年3月13日)