尾池 和夫
本日は京都大学、早稲田大学と黄桜株式会社が進めてまいりましたビール共同開発の第3弾として「ルビーナイル」をご紹介できることになりました。詳細は関係者のみなさんから話していただきますが、「ピラミダーレ」という珍しい小麦を使ったビールを開発していくそうです。「していく」と言いましても一応完成しており、ただピラミダーレはまだ栽培中で、今のところはデュラム小麦というのを使っていると聞いています。
京都大学がなぜビールの開発を手がけたのかとよく問われますが、最初のきっかけは先日京都大学で講演していただきました当時早稲田大学教授、現サイバー大学学長の吉村作治先生でした。吉村先生があるビール会社との共同研究で、壁画をもとに古代エジプトのアルコール飲料の再現に着手されたのが2001年のことです。それには京都大学が保存していたエンマー小麦という古代小麦が必要だというので提供して、再現できたと発表されたのが2004年の秋でした。それを私がビール会社のWEBで見つけて商品化できないかと思い、ここにおられる松重和美副学長がセンター長だった国際融合創造センターに持ち込んだところ、平井教授、澤田教授ほかのみなさんがいろいろ調べてくださって、残念ながらビール会社は商品にしないことがわかりました。
ところがその代わりに、問題のエンマー小麦を使ったおいしい現代ビールを作ろうと。それはどんなビールになるだろうか。これは栄養化学がご専門の農学研究科伏木教授のアイデアで、伏木先生は引き続いて黄桜株式会社とともにテイスト・デザインにあたられ、2006年4月に「ホワイトナイル」、2007年8月に姉妹品の発泡酒「ブルーナイル」が完成しました。そして本日は、再びビールの「ルビーナイル」を飲んでいただけることになりました。大学というのはやはり知の蓄積の場でありまして、しかしそれを抱え込んでいるだけではつまらない。学問は学問でやりますけれども、そのおもしろさをみなさんにも共有していただきたい。そのためのビールだったのではないかと思っています。
エンマー小麦にせよピラミダーレ小麦にせよ、古代エジプトで栽培されていました。その種を京都大学が持っていることが、木原均さん以来の伝統であり、河原先生たちのご努力の賜であります。それが京都の地下水、現代の知恵で我々の時代に通用するものによみがえることには文明史的な意味があると言えるでしょう。ホワイトナイル、ブルーナイルと並んで、ルビーナイルも末永く親しんでいただければと思います。本日はありがとうございました。