尾池 和夫
1967(昭和42)年6月1日に、京都大学霊長類研究所は、全国共同利用の附置研究所として発足し、本日、40周年を迎えられることとなりました。京都大学を代表して心からお祝いを申し上げます。
設立から40年、歴代の所長をはじめ、研究所の教員、職員、学生たちの活躍と共同研究者の方たちの理解と協力によって、霊長類研究所は、設立趣旨である「霊長類研究の重要性を鑑みた、霊長類研究をおこなう総合的な研究所」であるばかりでなく、今や、世界の霊長類研究の拠点となっています。
日本の霊長類研究の歴史は、戦後まもない1948(昭和23)年に、当時、京都大学の無給講師であった今西 錦司さん、学生であった伊谷 純一郎さん、河合 雅雄さん、川村 俊蔵さんらによって、宮崎県幸島の野生ザルの調査を始めたところから始まりました。それから数えれば、来年で、日本の霊長類研究は60周年を迎えることになります。
所長の松沢 哲郎先生からよく聞きますが、いわゆる先進国のなかで野生のサルがいるのは日本だけだそうで、地球上で最も北に住むのが下北半島のニホンザルだそうです。そのような条件から、霊長類学は日本から始まる学問として世界をリードしてきたのです。
1964(昭和39)年4月、日本学術会議は、第4部人類学民族学研究連絡委員会の発議により、第41回総会で霊長類研究所設立の勧告を決定し、5月13日に、日本学術会議の朝永 振一郎会長から池田勇人内閣総理大臣に、「霊長類研究所(仮称)の設立について」という勧告がなされました。その勧告の主文は「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」というものでした。
この日本学術会議の勧告から3年後の1967年6月1日に、京都大学霊長類研究所が、全国共同利用の附置研究所として発足したのであります。
霊長類研究所は、広範な人類学の各分野にわたって、その基礎をなす霊長類の生態学的、社会学的、心理学的、生理学的、生化学的、遺伝学的研究を有機的・総合的に推進するためという使命をもって、愛知県犬山市に創設されました。研究所用地の約1万7千平方メートルは名古屋鉄道株式会社からご寄附をいただいたものであります。
霊長類研究所の研究者たちの目覚ましい活躍によって多くの論文が出版され、観察記録や標本などを含む知財の蓄積が続けられてきました。今でも研究所は成長を続けています。例えば、平成18年度に、ニホンザルを本来の生息環境に近い環境のもとで飼育する「リサーチリソースステーション(RRS)」を完成させました。犬山市の明治村においてこの完成記念式典が挙行され、私も出席させていただきました。
また、霊長類研究所では、「ヒト科4属の共生を中心とした野生動物保全研究」という事業を推進する計画があります。それは、動物園を含めた産官学が連携して、京都大学の研究成果を提供することにより、例えば、絶滅の危機にある野生動物を保全しようということを目指す計画です。日本で少子高齢化のもっとも進行しているヒト科の生物はゴリラ属です。チンパンジー属もオランウータン属も含めて、ヒト科3属が絶滅危惧種になっています。この状況に対して、この野生動物の研究計画は、京都大学が地球社会の調和ある共存という基本理念に基づく教育、研究、社会貢献の具体化をはかる道の一つであると、私は思っています。
この40周年を記念して、霊長類研究所ではさまざまのことを企画しておられます。その中でも、とりわけ「京都大学霊長類研究所・東京シンポジウム2007」が注目されます。「京都大学霊長類研究所創立40周年記念・日本の霊長類学60周年記念」として、「人間と人間性の進化的起源」という表題で、6月3日(日曜日)、午後2時より5時半まで、東京大学弥生講堂一条ホールで開催されます。今日、ここでご講演いただいた、スバンテ・ペーボ博士(ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所)とフランス・ドゥバール博士(アメリカ合衆国、エモリー大学)のご講演も行われます。タイム誌が選んだ今年の「世界に最も影響力のある100人」の中のお2人です。
6月2日(土曜日)には、「京都大学霊長類研究所公開講座」が開催され、午前10時からは「ジュニア公開講座:この手でさわってみよう」など、夕方まで興味深い企画が用意されています。
京都大学は、教育、研究、社会貢献をその使命として、伝統を守り、智の蓄積をはかっていく中で、さまざまの形で智の蓄積を市民と共有する努力を続けていく所存です。霊長類研究所の活動についても、このような機会に、広くその活動を知っていただき、ますますの多くの方々のご理解とご協力をいただくようお願いします。
この40周年記念の式典を契機として、霊長類研究所の研究が一段と飛躍し、世界の霊長類研究をリードしながら、ますます活躍されることを祈って、私の40周年記念式典のお祝いの言葉といたします。
設立40周年、まことにおめでとうございます。