尾池 和夫
上海センターが開催しましたこのシンポジウムに、たくさんの方々にご参加頂き、ありがとうございます。
京都大学は、中国研究において世界的に認められる研究の蓄積を持っています。その上に幅広い分野で現在、世界最高水準の研究者が所属してさらなる研究の進展が見られます。しかしその分野は主として近世以前の時代を対象として発展してきました。そのような中で、経済学研究科を中心とするご努力によって上海センターが2年前に発足し、現代中国に関する研究が急速に発展し、新しい情報を発信し続けています。これは京都大学の多くの成功している国際研究プロジェクトの一つとして位置づけることができます。
上海センターは、これまで、中国の経済、経営に関して幅広いテーマでシンポジウムや講演会、研究会などを開催してこられました。その成果をもとに、上海センターは今後ともますます研究者の相互派遣や学生の交換留学を進める計画であり、留学生のためには現地で入学試験を行うことなども検討されているとうかがっております。
このセンターのある復旦大学には、昨年8月6日に私も、山本 裕美先生や北野 尚宏先生のご案内で訪問し、また今年、復旦大学は創立百周年のお祝いを盛大に挙行され、私も京都大学を代表してお祝いの席に参列させていただき、次の百年へとさらなる発展をめざす力強い宣言を伺いました。
今日のシンポジウムにご参加の方々は、大学関係者のみならず、自動車メーカー、自動車部品メーカー、自動車販売会社、コンサルティング会社、情報調査会社等、産業界から多数の方々がご参加くださっています。このようなことは、社会科学あるいは人文科学の学会では異例のことだそうで、上海センターの方に伺うと、その発信する情報の質が認められていて、その社会的実用的価値の高いことの証拠なのですと、自信を持ってたいへん心強いご説明をいただきました。
ところで今回のシンポジウムの内容をうかがいますと、まず、「中国は日本を追い抜くか」「それはいつか」「2010年にはどこまで拡大するか」について、日本を代表するシンクタンクである現代文化研究所、野村総研、三菱総研のプロフェッショナルに問題提起していただくそうです。次いで、中国で駐在経験のある方々から中国の生産管理能力、品質や技術開発力などを検討して頂くということで、たいへん魅力的な内容だと思います。
私は地震予知を研究テーマの一つにしてきましたが、長期予測の困難さを話すときに、予測の当たらない例としていつも経済予測を挙げてきました。地震は自然現象で、まだまだ予測の難しい分野ですが、震災は社会現象で、一度地震が起こったときの災害予測はきっちりとやって防災対策を進めることができいます。経済予測も困難な面があるでしょうが、情報を分析して企業が中長期計画を検討するのは同じだと思います。
新聞などのマスメディアは情報の源ですし、最近はネットを通してさまざまな情報が得られます。また、中国情報はとくにさまざまな形で提供されるしくみがあります。私も中国には1974年以来ずいぶんたびたび行って、多くの地域を訪れました。その中で、中国という国に関しては、とくに個人のお付き合いから得る情報が重要だという経験もしました。
自動車に関しては、2004年に540万台の生産と販売が行われ、自動車生産台数では世界4位だということ、国内販売台数ではアメリカ合衆国、日本に次いで世界第3位であり、2006年には日本を追い抜いて世界第2位の市場となるでしょう。
先日上海の街でしばらく観察していただけでも、フォルクスワーゲンがドイツよりもたくさん走っているように思いました。フォルクスワーゲンのマークが、中国の大衆の「衆」の字に似ているのも感心しました。トヨタも中国では「豊」という字の略字をマークに使うといいのではないかと思いました。
中国は交通事故、都市計画、環境などの問題も、自動車産業の急速な発展とともに大きな課題となるでしょう。先日、北京市で国慶節の大型連休の最後の日に美しい秋空を見て、さすがに北京の10月と感激したのですが、休日が終わったとたんに青空が見えなくなり、それが空気の汚れのためと気づいて愕然としました。
中国では車だけではなく、あらゆる分野での急激な成長が見られます。大学も同じです。京都大学上海センターのニュースレターは、さまざまな情報を提供していますが、最近の第80号(2005年10月25日)は、中国の2005年の造船の実績が1000万DWT(重量トン)を超え、世界全体の15%以上を占めるようになるとの見通しを伝えました。世界市場における船舶価格の値下がりも中国の造船業の発展には影響はなく、2010年までに建造実績は1500万重量トンに達するだろうという予測です。
一方、中国でのいわゆる「ニート族」の増加も伝えています。今日は、中国の、急成長する中国自動車産業に関するシンポジウムですが、今後とも、上海センターが中心になって、さまざまの情報の提供と分析を通じて、日本と中国との実りある交流を進めるために役立つ研究成果をあげていくことを期待しております。
多くの方々にご協力いただき、今日のシンポジウムにたくさんの方々のご参加を賜りましたことに、あらためてお礼を申し上げて、私の挨拶といたします。
ありがとうございました。