尾池 和夫
今年(2004年)4月22日に、AEARU(Association of East Asian Research University)の理事会が中国広東省の深セン(土へんに川)経済特区で開かれたので、戸倉課長に随行してもらって、入倉理事と私が出席した。
AEARUの現在の理事会の構成は、議長が中国科技大学(安徽省合肥市)のZhu Qingshi(朱清時)学長、副議長が香港科技大学のPaul C.W. Chu(朱経武)学長と韓国の大田にあるKAISTのChang-Sun Hong学長、前議長である台湾大学のWei-Jao Chen(陳維昭)学長と尾池である。私は、東京大学から京都大学に理事を引継いだあと初めて出席し、Zhu議長に丁寧な紹介をしていただいた。
理事会の議題は、主に最近の事業報告と今後の事業予定の討議で、いくつかの事業予定が決まった。ワークショップと学生のためのサマーキャンプがいくつか計画されている。また、議長大学ではロボットコンテストを計画しているという報告があり、これに参加するには準備に時間がかかるので、早目に日程を決めてくれるよう申し入れた。
この理事会に合わせて、4月21日から23日まで、第1回医学ワークショップが同じ場所で開催され、京都大学からは探索医療センターの清水教授が出席して報告と座長をつとめた。このワークショップの中に新設された北京大学の深セン医院の見学も組み込まれていて私も参加した。その紹介のため北京大学のXu Zhihong(許智宏)学長もかけつけていた。
深センまで行くのには1日かかった。関西国際空港から香港国際空港まで3時間半かかった。ものすごく大きな新しい空港で韓国からの人と台湾からの人たちと待ち合せて、香港科技大学が用意したバスに乗って、新しい大橋を渡った。渡った所が落馬州である。香港からの出国手続をしてバスに乗って、また次の中国内への入国手続では荷物を持って並ぶ。税関を通ると深セン経済特区である。また同じバスに乗って特区の五洲賓館に着く。日本から持ってきた地図には出ていないが、中心部より西に離れた所に香密暇村(ハニーリゾート)という所があってその近くのホテルである。
深セン市に私は以前来たことがあるが、それは1974年のことで、日本から中国までの直行便がないときだった。鉄橋を歩いて渡った所に兵士が並ぶ国境があった。30年たって大変なちがいだと中国の人たちに説明した。五洲賓館から北へ、北京大学の病院に向かう新洲路の大通りの東側に深セン民防という役所があり、そこに地震局があるのが見えた。病院長に地震対策をしているかと聞いたら、対策はしているが、ここは地震が起こったことはないという答だった。入倉さんに手に入れてもらった深セン市の地図には「暇日酒店」という広告が載っている。Holiday Innの広告である。
ホテルで三食飽きたころに、その暇村の海鮮レストランに連れて行ってくれた。海鮮料理をたっぷりいただいたあと、主な仕事が終ったのでテレビをつけてみたら、音楽劇「猫」を英語でやっていた。画面の下の方に「鉄路火車上的猫」というように字幕が出てきて、よくわかった。
来年、2005年の桜が咲く頃、ぜひ京都で次々回の理事会を開いてほしいと皆にたのまれて、国際協力を担当する入倉さんが、用意しようと約束した。医学ワークショップの人たちの中にも、それを聞いた人がいて、ワークショップもやってほしいと言われたが、そこまでは確約できなかった。
東アジアの科学技術を発展させるために、京都大学から始める新しいワークショップがあってもいいと思う。入倉さんもCOEプログラムのことを話していた。皆さんのご協力と積極的なご提案をお願いしたいと思う。
深センから乗用車で香港科技大学へ向かった。税関の荷物検査はなくて、体温の測定とパスポートに出境の手続きをして、さらに入境の手続をして香港地域へ入る。
香港科技大学は競馬の基金などの寄附で1991年に設立された大学である。九龍島の中腹にあって、ロビーホールや図書館から小さい島のたくさん浮かぶ海が見える。清水湾という地名である。学生の寮や教員の住宅からの景色もよさそうである。
図書館は海からの光をたっぷり採り込む明るい閲覧室を持っている。図書館で4月1日のインターナショナル・ヘラルド・トリビューンを請求したらすぐ出てきて、皆さんに京都大学の広告の実物を見せることができた。
材料測製実験所を見学した。学内外からの共同利用でテクニカルスタッフがたくさんいる。表面分析、電子顕微鏡、走査型顕微鏡、X線結晶解析、核磁気共鳴、薄膜実験など、さまざまな測定ができる。それらの成果が壁に示されている。
香港科技大学でおいしい昼食を学長さんたちといただいた。そこへ韓国のKAISTの総長Chang-Sun HONG(洪 昌善)さんも到着して参加した。Hongさんは比例代表で議員になったところである。
午後は香港大学を、私の希望で、AEARUの仕事とは別に訪問した。香港で最も古い大学に表敬訪問である。香港の中心地の映画「慕情」で有名なビクトリアピークの山腹にある大きな大学である。副学長のLap-Chee Tsui(除 立之)さん、John Malpasさんが全体の説明をして下さって、企画部門の総監であるキャサリン(尹凱メイ:さんずいに眉、unicode:6E44)さんが交流を進めるための具体的な話を熱心にした。日本からの留学生が少ないという。
説明のあと坂ばかりの道を走って医学部の新しい建物にあるGenome Research Centre(基因研究中心)を見学した。最新設備をそろえた人ゲノムやDNAの実験室の熱のこもった説明を受けた。
その後また本部のある地区にもどって、日本研究学系を見学した。そこの村上 史展先生は、かなり長期に指導しておられるという。助教授のPeter Caveさんも、きれいな日本語を話す。学生たちは、日本料理のレシピをウェブサイトに載せるための作業を進めていた。先生が少ないので制限しているが、たくさんの学生が日本の勉強をしている。
香港の大学では後期の試験中で、6月くらいから2か月半ほどの夏休みに入り、秋に新学年の前期が始まる。
京都大学では、多くの21世紀COEプログラムが東アジア地域での研究と教育の拠点作りを目指している。AEARUのメンバー大学にも、また香港の2つの大学にも、ぜひ交流の輪を広げていただきたいと願っている。