木材塗装の“見えない劣化”を予測―赤外分光と機械学習で木材を守る新技術―

In other languages
ターゲット
公開日

 寺本好邦 農学研究科准教授、山本千尋 同修士課程学生(研究当時)、西村香穂 同修士課程学生らの研究グループは、木材塗装の劣化を非破壊・早期に予測する新たな技術を開発しました。中赤外分光法と機械学習(PLS回帰)を組み合わせることで、塗膜の外観には表れない分子レベルの変化をとらえ、劣化の度合いを高精度に予測することに成功しました。これにより、従来のような目視点検に頼らず、塗膜の劣化進行を早期に察知し、木材の腐朽や建築物の劣化リスクを未然に防ぐことが可能になります。木造建築の利用が広がるなか、建物の長寿命化や点検作業の省力化、メンテナンスの効率化に大きく貢献すると期待されます。

 本研究は、京都市「産学連携実装化プロジェクト」ならびに公益財団法人日本化学繊維研究所「2024年度研究助成」の支援を受け、木材塗料メーカーである玄々化学工業株式会社との共同研究として行われました。

 本研究成果は、2025年3月19日に、国際学術誌「Advanced Sustainable Systems」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
赤外スペクトルと機械学習によって塗膜の劣化状態を解析する技術のイメージ。「Advanced Sustainable Systems」表紙(2024年、Teramoto et al. Vol. 8, Issue 2, 2300354)より改変。© Wiley-VCH.
研究者のコメント
「木材塗装の劣化は、見た目では気づきにくい『静かな変化』として進行し、気づいたときには内部まで損傷していることもあります。今回の研究では、そうした“目に見えない劣化”を科学的根拠に基づいて捉える手法の確立を目指しました。赤外分光によって塗膜中の化学構造の変化を可視化し、機械学習により劣化状態を数値として予測することで、感覚や経験に頼らない診断が可能となる一歩を示すことができました。

今後は、木材塗装に限らずさまざまな材料・製品へと応用範囲を広げ、持続可能な社会を支える『スマートメンテナンス技術』へと発展させていきたいと考えています。また、維持管理業務の効率化や判断のデータ化を通じて、木材利用関連産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも貢献していければと期待しています。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1002/adsu.202401052

【書誌情報】
Yoshikuni Teramoto, Takumi Ito, Chihiro Yamamoto, Kaho Nishimura, Toshiyuki Takano, Hironari Ohki (2025). Quantitative Prediction of Latent Deterioration in Waterborne Coatings for Wood Using Mid-Infrared Spectroscopy and Machine Learning. Advanced Sustainable Systems, 2401052.