自然生態系で草食性の害虫の活動を抑えているのは、同業者の芋虫かもしれません。
金藤栞 農学研究科大学院生、矢野修一 同助教、秋野順治 京都工芸繊維大学教授の研究グループは、害虫の世界王者のナミハダニと近縁種のカンザワハダニが、チョウやガの幼虫(カイコ、セスジスズメ、ナミアゲハ、ハスモンヨトウの幼虫、以下「芋虫」)の足跡を避けることを世界で初めて発見しました。ハダニが肉食性のアリの足跡を避ける(2022.10.31プレスリリース)のは分かりますが、何故草食性の芋虫の足跡を避けるのでしょう。その理由は、体長が0.5mm以下であるハダニは葉を食べる大食いの芋虫に出会うと自分の命だけでなく子孫と全財産を失うからです。芋虫の足跡を避けるハダニは、この巨大災害を避けるのと引き換えに、餌植物を自由に利用できないはずです。カンザワハダニがカイコの足跡から抽出した化学物質を避けることと、足跡の忌避効果が2日以上続くことも分かりました。この物質を特定できれば、天然物質由来で効果が長持ちする、夢のハダニ忌避剤が実現するかもしれません。
本研究成果は、2023年2月1日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
「私は研究を始めて2年目の若造です。この世界の片隅の風景しか知らない井の中の蛙ですが、だからこそ研究を通して大海、つまり世界の仕組みを覗き見られる毎日に胸が高鳴っています。草食性の芋虫が、意図せずにより小さな害虫たちを脅かして自然界の秩序を保っていた、という事実にワクワクしませんか?そんなワクワクを皆さんにも届けられるよう、邁進してまいります。」(金藤栞)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-023-28861-0
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279499
【書誌情報】
Shiori Kinto, Toshiharu Akino, Shuichi Yano (2023). Spider mites avoid caterpillar traces to prevent intraguild predation. Scientific Reports, 13:1841.
中日新聞(3月6日 夕刊6面)、信濃毎日新聞(3月9日 夕刊7面)、開拓情報(4月15日 第780号5面)および読売新聞(5月12日 28面)に掲載されました。