※ 動画非公開化のため削除しました。(2022年8月24日)
狩野文浩 野生動物研究センター特定助教、平田聡 同教授、クリストファー・クルペンイェ デューク大学博士らの研究グループは、アイ・トラッキングという視線を記録する装置を使って、類人猿がヒトと同様に他者の「誤信念」(他者が現実とは異なる状況を信じていること)に基づき予測的な注視をすることを明らかにしました。
本研究は、熊本サンクチュアリおよびドイツマックスプランク研究所で行われ、2016年10月7日午前3時に米国の科学雑誌「Science」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究ではヒト以外の動物で「誤信念」理解を示したわけですから、心理学、哲学、進化学の分野で、ヒトの特殊性・優位性に対する考えを改めなければならないでしょう。その意味で学術的なインパクトも高く、さまざまな分野で注目を集めると考えています。また、この実験で用いた手法―アイ・トラッキングの手法を用いて、自作のドラマを見せて、予測的な見方を調べること―は、大変ユニークなものです。言葉を持たない動物やヒトの幼児の記憶能力やその他高度な認知機能を調べるために、なおいっそう有用視されると期待しています。
概要
他者の「心」を理解する能力は社会生活の基本です。この能力は、ヒト以外の動物にも存在することが知られています。しかし、ヒト以外の動物が、「他者が現実とは異なる状況を信じていること」を理解することを示した研究はこれまでなく、ヒト特有の高度な認知能力であると考えられてきました。
例えば、ある人物Aが引き出しにペンをしまい外出し、不在中に他人がペンを筆入れに移したとします。帰宅したAがペンをとろうとまず探すのは引き出しでしょうか、それとも筆入れでしょうか。ペンが筆入れにあるにも関わらず、Aが引き出しを探すと類推できるのは、他者が現実とは異なる状況を信じていると理解しているからです。引き出しに向かうAの思考を「誤信念」と呼びます。つまり、他者の頭の中にのみ存在する仮想現実です。それを理解する能力があるということは、他者の心的状態を本当に理解しているという強い証拠になります。
本研究グループは、アイ・トラッキングという視線を記録する装置を使って、類人猿がヒトと同様に他者の「誤信念」に基づき予測的な注視をすることを明らかにしました。類人猿にも、この種の高度な認知能力があることを示唆した初めての研究で、ヒトと類人猿との進化的なつながりがまた一つ明らかになりました。
詳しい研究内容について
※動画削除
実験1 (ヒトの役者とコスチュームの偽類人猿が争い、類人猿役者が干草の中に隠れる)
※動画削除
実験2 (類人猿役者が石を箱の中に隠す)
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1126/science.aaf8110
Christopher Krupenye, Fumihiro Kano, Satoshi Hirata, Josep Call, Michael Tomasello. (2016). Great apes anticipate that other individuals will act according to false beliefs. Science, Vol. 354, Issue 6308, pp. 110-114.
- 朝日新聞(10月7日夕刊 13面)、京都新聞(10月7日 26面)、産経新聞(10月7日 26面)、中日新聞(10月7日 29面)、日本経済新聞(10月7日 38面)、毎日新聞(10月7日 24面および10月8日 1面)および読売新聞(10月8日 27面)に掲載されました。