市川小夏 農学研究科修士課程学生、足立大宜 同特定研究員、北隅優希 同准教授、白井理 同教授、宋和慶盛 同助教らの研究グループは、Gluconobacter oxydansという酢酸菌由来のアルデヒド脱水素酵素(ALDH)およびその変異体の特性評価より、ALDHの膜結合サブユニットが触媒活性の向上に寄与することを明らかにしました。また、酵素の触媒反応を解析するための数理モデルを構築し、ALDHの膜結合サブユニット欠損変異体(ΔC_ALDH)の触媒反応に関する熱力学および速度論的パラメータを解明しました。
酸化還元酵素は、呼吸や光合成といった生体内電子移動において重要な役割を担う生体触媒です。中でも、一部の酵素は、「直接電子移動型酵素電極反応(DET型反応)」と呼称される反応を進行し、酸化還元に伴う電子を電極に直接的に伝達できます。DET型反応が可能な酵素(DET酵素)の中でも、ALDHは卓越したDET活性を有します。本酵素は、呼吸鎖電子伝達を担う三量体膜酵素であり、生体内反応では、アセトアルデヒド酸化とユビキノン還元を触媒します。一方、DET型反応では、アセトアルデヒド酸化に伴う電子を電極に受け渡すことが可能です。本研究では、ALDHの膜結合サブユニットの働きに着目し、ΔC_ALDHを開発しました。ΔC_ALDHと野生型組み換えALDH(rALDH)の比較より、膜結合サブユニットの存在が、ALDHの活性向上に寄与していることを証明しました。さらに、ΔC_ALDHの活性と酵素-基質間の電位差に理想的な直線自由エネルギー関係(LFER)が成立することを発見し、LFERに基づく新しい酵素反応解析モデルを構築することで、ΔC_ALDHの触媒反応定数(kcat)は5000±2000 s–1と算出されました。本成果は、酵素の触媒反応機構を解明し、より高活性なDET酵素開発に貢献する点で、学術的かつ社会的な波及効果が期待されます。
本研究成果は、2025年4月18日に、国際学術誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。

「一見複雑に思える酵素反応が、単純なパラメータ同士の比例関係で規定されていることが分かり、生物の代謝がいかに合理的であるのかを痛感しました。本研究成果を活用し、様々な酵素におけるDET型反応メカニズムの解明に挑戦し続けたいと思います。」(足立大宜)
「電気化学的な手法を駆使してさまざまな生命現象をモデル化し、今後も生命の理解を深めてゆきたいと思います。」(北隅優希)
「新しい数理モデルを駆使することで、卓越したDET活性を持つALDHの反応メカニズムの一端を明らかにすることができました。今回の成果により、DET酵素のより詳細な理解だけでなく、合理的で戦略的な酵素創出も期待できます。今後、自然が創り出した高度な触媒機能を利活用することで、人類と地球を豊かにする革新的な技術を実現し、研究成果の社会実装に取り組みます。」(宋和慶盛)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/acscatal.4c07978
【書誌情報】
Konatsu Ichikawa, Taiki Adachi, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai, Keisei Sowa (2025). Quantitative Elucidation of Catalytic Reaction of Truncated Aldehyde Dehydrogenase Based on Linear Free Energy Relationship. ACS Catalysis, 15, 7283-7295.