Vu Tan Van 基礎物理学研究所准教授、早川尚男 同教授らの研究グループは、熱的緩和過程におけるペンバ効果を統一的かつ厳密に定量化する新たな理論枠組みを構築しました。ペンバ効果とは、通常の直感に反して、高温の物質が低温の物質よりも速く冷却される現象です。従来の研究では、特定の距離測定法を用いてその有無を判定していましたが、測定法の選択によって結果が変わるという根本的な課題がありました。本研究では、この問題を解決するために、「熱的マジョライゼーション」という数学的手法を導入し、異なる距離測定法に依存しない統一的な理論枠組みを開発しました。この新しい理論により、ペンバ効果の評価が特定の測定法に依存せず、全ての測定法を同時に考慮した場合と等価であることを示しました。さらに、ペンバ効果が特定の温度範囲に限定されるものではなく、幅広い温度領域で発生しうることを明らかにしました。この枠組みは、古典系と量子系などの様々な熱的緩和過程にも適用可能であり、非平衡物理学の新たな視点を提供します。今後、この理論を基にした実験的検証が進めば、熱的緩和現象の理解がさらに深まり、熱機関や量子コンピュータなどの分野への応用も期待されます。
本研究成果は、2025年3月10日に、国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。さらに本論文は、同誌の「Editors' Suggestion」(注目論文)に選定されました。

研究者のコメント
【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.107101
【書誌情報】
Tan Van Vu, Hisao Hayakawa (2025). Thermomajorization Mpemba Effect. Physical Review Letters, 134, 107101.