医師の働き方改革の課題として研究時間の確保が議論されていますが、医療従事者が様々な学術活動に関わることで医療の質が向上することが報告されており、日本専門医機構や米国大学院医学教育認定評議会プログラム等の医学教育上も学術活動が重視されてきました。しかし、医療機関の臨床医等が学会発表を行うことで医療の質が向上するかどうかを具体的に調べた報告はありませんでした。
今中雄一 医学研究科教授、髙田大輔 同特定講師らの研究グループは「臨床医等の学会発表は、よりエビデンスに基づいた診療行為を通じて、患者の転帰の改善に影響するのではないか」という仮説を立てて、医療の質向上プロジェクト(QIP)の全国統一形式の臨床情報・診療行為データを用いて、信頼性の高いエビデンスが豊富な急性心筋梗塞の領域で検証を行いました。結果、学会発表を行っている医療機関で治療を受けた患者の方が院内死亡割合は低く、その効果はエビデンスに基づく薬剤の処方等が関与した可能性が示唆されました。
本研究は、医師の働き方改革における自己研鑽の捉え方や医学教育上の学会発表の重要性にも示唆を与えるのみならず、政策決定や病院経営上も有用な知見であり、文部科学省の医学系研究支援プログラム等も後押しできた点で意義があります。
本研究成果は、2024年12月9日に、国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。
「様々な統計手法を追加し、メカニズムやcausalityへの言及を深めることで論文として発表することができました。働き方改革で聞こえてくる現場からの応援や、共に働いた行政医からの励ましがなければ挫折していたかもしれません。この論文により、医療現場で働きながら慣れない学会発表に真摯に向き合ってきた後輩医師達の頑張りを、社会システム上評価される風土の醸成に少しでも貢献できたのであれば、これ以上の幸せはございません。」(髙田大輔)
【DOI】
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0315217
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290880
【書誌情報】
Daisuke Takada, Yuki Kataoka, Tetsuji Morishita, Noriko Sasaki, Susumu Kunisawa, Yuichi Imanaka (2024). The relationship between conference presentations and in-hospital mortality in patients admitted with acute myocardial infarction: Aretrospective analysis using a Japanese administrative database. PLoS ONE, 19, 12, e0315217.