阪口翔太 人間・環境学研究科助教、渡辺洋一 千葉大学助教らを中心とする国際研究グループは、日本(関東地方)と韓国の無人島の間で約1100㎞も離れて分布する希少植物・ウラジロヒカゲツツジの集団ゲノム分析を行いました。その結果、日本のウラジロヒカゲツツジと同種とされていた韓国のツツジが、実は異なる進化的起源をもち、約260万年にわたって独自の進化を遂げた未知種であることが明らかになりました。この韓国の孤島に生育する個体群は、本研究で「チョウセンヒカゲツツジ」として新種記載されました。日本のウラジロヒカゲツツジとチョウセンヒカゲツツジは起源が異なりますが、葉の形態などの見た目はよく似ています。これについては、岩場の乾燥環境に日本と朝鮮半島で別々に適応した結果、収斂進化(「他人の空似」進化)が起きたのではないかと考えられます。
さらに、日本のウラジロヒカゲツツジは国内に広く分布するヒカゲツツジの変種とされてきましたが、集団ゲノム分析によって、2変種間の遺伝的交流が途絶えており、それぞれが生殖的に隔離された独立種であることが確認されました。これにより、これまで1種類とされてきたヒカゲツツジの仲間は、実際には3種の独立種から成ることが明らかになりました。
生物の遺伝的多様性は、その種が環境に適応して進化するポテンシャルを表します。本研究により、チョウセンヒカゲツツジとウラジロヒカゲツツジの遺伝的多様性は極めて低く、世界のツツジ類の中でも最低のレベルにあることが分かりました。これら2種のツツジは、現存個体数がそれぞれ500個体未満と少なく、近い将来の絶滅が危惧される分布状況にもあります。今後、これら2種の絶滅危惧植物を保全していくためには、残された生育地の保護を通して、個体数と遺伝的多様性の維持・回復を図ることが望まれます。
本研究成果は、2024年11月30日に、国際学術誌「Taxon」にオンライン掲載されました。
チョウセンヒカゲツツジの学名には『tyaihyonii』という語が含まれていますが、これは韓国植物学の父とされる鄭台鉉(Chung Tyaihyon)氏(1882-1971)にちなんでいます。鄭氏は、日本統治時代に朝鮮半島に派遣されていた中井猛之進氏や石戸谷勉氏らの日本人研究者と交流を持ち、植物標本を収集することで彼らを支援しました。その後、中井氏は朝鮮半島の植物相をまとめた『フロラ・コレアナ(朝鮮植物誌)』を出版し、多くの朝鮮固有の植物(ウチワノキやチョウセンキレンゲショウマ)を記載しました。実はウチワノキなどの発見は鄭氏によるものとされますが、種の記載の際には、命名者として中井氏の名だけが記され、鄭氏の名は含められませんでした。本研究におけるチョウセンヒカゲツツジの命名では、朝鮮半島の植物分類学の黎明期に日本人とともに活躍した鄭台鉉氏に光を当て、今後の日韓の植物研究における協力関係が発展することを期待して鄭氏に献名しました。」(阪口翔太)