社会関係の中心にいるサルは強い自制心を示す―野生ニホンザルの社会性と認知能力の関係―

ターゲット
公開日

 私たちヒトを含め、多くの霊長類は他の仲間とともに集団を形成して暮らしています。人間社会と同じように、サルの社会でも、誰かと争ったり、時には協力したりなど、様々な駆け引きが行われています。このような複雑な社会の中で生きることが、高度な認知能力を進化させる原動力になるという考えは、「社会的知性仮説」と呼ばれます。この仮説について、これまでは主に異なる種の間での比較による研究が多く行われてきました。しかし、同じ群れの中でも、個体によってそれぞれの社会関係は大きく異なります。例えば、群れの中心的なサルは、多くの仲間と関わりを持ち、より複雑な社会関係の中で生きていると考えられます。反対に、仲間との関わりが少ないサルは、比較的単純な社会関係の中で過ごしているのかもしれません。これまでの研究では、このような個体ごとの社会関係の違いが認知能力とどのように関連しているかについて、ほとんど調べられていませんでした。

 貝ヶ石優 高等研究院特定研究員および山本真也 同准教授の研究チームは、3年間にわたって記録された野生ニホンザルの社会関係データと、野外認知実験の結果から、群れの中でより中心的な地位を占めるサルほど、高い自己抑制能力を示すことを明らかにしました。自己抑制能力は、衝動的な行動を抑え、状況に応じて柔軟に行動を変える能力と考えられます。複雑な社会の中で生きるサルにとって、攻撃的な衝動を抑えたり、他のサルとの関係に応じてうまく行動を調節したりすることは、多くの仲間と良好な関係を維持するうえで重要なのかもしれません。本研究は、社会的知性仮説について、ヒト以外の野生動物において個体レベルでの検証を行った初めての研究です。

 本研究成果は、2024年11月19日に、国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

文章を入れてください
野外認知実験の様子。(左)餌をカップに隠してサルに選ばせる課題。(右)透明な筒の中から餌を取りだす課題。
研究者のコメント
「本研究では、餌付けされた野生ニホンザル集団を対象に、行動観察と認知課題を組み合わせた方法によって研究を行いました。一般的には、野外での霊長類研究は行動観察を主に行い、認知課題を用いた研究は飼育下の個体を対象に実施されることがほとんどです。もちろん、純粋な行動観察研究からも、霊長類の社会や認知特性に関する重要な知見が数多く得られます。しかし今回の研究のように、飼育下で行われるような認知研究を野生下で行い、行動観察と組み合わせることは、サルたちの社会に関する新たな視点をもたらすのではないかと思っています。」(貝ヶ石優)
研究者情報
研究者名
貝ヶ石 優
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-024-77912-7

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290808

【書誌情報】
Yu Kaigaishi, Shinya Yamamoto (2024). Higher eigenvector centrality in grooming network is linked to better inhibitory control task performance but not other cognitive tasks in free-ranging Japanese macaques. Scientific Reports, 14, 26804.

関連部局