森雄一郎 医学研究科博士課程学生、井上浩輔 白眉センター/医学研究科准教授、近藤尚己 医学研究科教授、福間真悟 同教授、柳田素子 同教授、古村俊昌 米国ボストン大学(Boston University)修士課程学生、八木隆一郎 米国ハーバード大学(Harvard University)リサーチフェロー、安富元彦 同博士課程学生、O. Kenrik Duru 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授、Katherine R. Tuttle 米国ワシントン大学(University of Washington)教授らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、糖尿病薬であるSGLT2阻害薬の心血管病リスクに対する有効性が、非肥満糖尿病患者において減弱する可能性を明らかにしました。
SGLT2阻害薬は2010年代に承認された、糖分を尿から排泄することを促す比較的新しい糖尿病薬です。既存の各種の糖尿病薬と比べて心血管病予防効果を示す知見が蓄積しており、近年は第一選択薬のひとつとして広く使用されています。しかし、SGLT2阻害薬の有効性を示した過去の大規模臨床研究の参加者の大多数は、平均BMIが30を超えるような肥満糖尿病患者さんでした。実際の臨床現場、とくに日本ではBMIが25を下回る糖尿病患者さんが多くおり、こういった肥満のない患者さんでも、糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が本当に効果的なのかは、検証が不十分でした。
そこで、本研究では日本の勤労世代を広くカバーする協会けんぽのデータベースを活用し、データベース上で可能な限り臨床試験を再現する「標的試験エミュレーション」という最新の観察研究の枠組みのもと、日本のSGLT2阻害薬の効果検証を行いました。まず、すでに効果が十分実証されている肥満傾向~肥満(BMI25kg/m2以上)の患者さんで効果が再現されることを確認し、そのうえでBMI25未満の患者さんで効果検証を行いました。結果、肥満傾向~肥満の患者さんでは確かにSGLT2阻害薬は有効でしたが、BMI25未満の患者さんでは効果は明らかではありませんでした。
本研究は、臨床試験には十分に含まれていなかった患者さんに対して、ビッグデータと最新の観察研究の枠組みを用い、すでに広く使用されている薬剤が必ずしも有効ではない可能性を明らかにしました。本研究が示したのは非肥満糖尿病患者さん全体における平均的な効果であり、非肥満糖尿病患者さんのなかでも、SGLT2阻害薬が効果的な人とそうでない人がいるのか(異質性があるのか)は、さらなる検証が必要です。今後、本研究をさらに発展させ、心血管病予防の最適化に資するエビデンスの提供を目指します。
本研究成果は、2024年10月22日に、国際学術誌「Cardiovascular Diabetology」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1186/s12933-024-02478-7
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290631
【書誌情報】
Yuichiro Mori, Toshiaki Komura, Motohiko Adomi, Ryuichiro Yagi, Shingo Fukuma, Naoki Kondo, Motoko Yanagita, O. Kenrik Duru, Katherine R. Tuttle, Kosuke Inoue (2024). Sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors and cardiovascular events among patients with type 2 diabetes and low-to-normal body mass index: a nationwide cohort study. Cardiovascular Diabetology, 23, 372.
読売新聞(11月12日 28面)、朝日新聞(11月27日 22面)に掲載されました。