日和見病原性ウェルシュ菌のヒアルロン酸分解機構―抗菌剤開発への展開―

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 久門知也 農学研究科修士課程学生(研究当時)と橋本渉 同教授らの研究グループは、日和見感染症や食中毒を惹起するウェルシュ菌(Clostridium perfringens)の宿主動物細胞に侵入する候補因子としてヒアルロン酸分解の初発酵素を同定しました。

 ヒアルロン酸は、ウロン酸とアミノ糖からなる二糖の繰り返し配列をもつ多糖であり、動物の細胞外マトリックスとして機能します。細胞外マトリックスは、細胞の物理的障壁や細胞の分化と増殖にはたらきます。ヒト常在菌や病原菌の中には、細胞外マトリックスを定着や分解の標的とする細菌が存在します。

 ウェルシュ菌は腸内に優占する細菌の一種ですが、時には日和見感染症や食中毒を引き起こします。その際、宿主動物細胞に侵入する因子として、ヒアルロン酸分解に機能するヒアルロニダーゼ(muトキシン)を生産します。これまでに、muトキシンの構成要素としてエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NagHJK)が同定されています。本研究では、ウェルシュ菌標準株(C. perfringens ATCC 13124)を対象に、ヒアルロン酸分解機構を再検証しました。その結果、ウェルシュ菌標準株のゲノムには同研究グループが連鎖球菌(Streptococcus)に同定したグリコサミノグリカン(GAG)の分解・輸送・代謝に関わる遺伝子クラスターが存在すること、ヒアルロン酸存在下でNagHJK遺伝子の発現は抑制される一方、GAG遺伝子クラスターが顕著に発現すること、ならびにGAG遺伝子クラスターにコードされる酵素ヒアルロン酸リアーゼHysAがヒアルロン分解の初発酵素として機能することが明らかになりました。

 本研究では、muトキシン(NagHJK)よりもヒアルロン酸リアーゼ(HysA)がウェルシュ菌標準株による宿主動物細胞に侵入する因子の一つとしてはたらき、本酵素がウェルシュ菌感染症に対する治療や予防の創薬ターゲットになる可能性が示されました。

 本研究成果は、2024年10月22日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

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ウェルシュ菌のGAG遺伝子クラスター(左)とヒアルロン酸分解機構(右)
研究者のコメント

「ウェルシュ菌と同様、ヒト常在菌や病原菌の多くのゲノムには、GAG遺伝子クラスターが見いだされます。また、その遺伝子クラスター内の各遺伝子には多様性が認められます。今後は、GAG遺伝子クラスターの発現と機能解析を進め、本クラスターと各細菌の常在性・病原性との相関、ならびにGAG遺伝子クラスターの分子進化を明らかにする所存です。」(橋本渉)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-024-73955-y

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290625

【書誌情報】
Tomoya Kumon, Sayoko Oiki, Wataru Hashimoto (2024). Molecular identification of hyaluronate lyase, not hyaluronidase, as an intrinsic hyaluronan-degrading enzyme in Clostridium perfringens strain ATCC 13124. Scientific Reports, 14, 24266.