笠形の巻貝類の新属アコヤザラ属の創設、およびハナザラ属の再検討―190年ぶりのタイプ標本再発見―

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 中野智之 フィールド科学教育研究センター准教授、山守瑠奈 同助教、Bruce Marshall ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワ(Museum of New Zealand Te Papa Tongarewa)博士、Suzanne Williams 英国ロンドン自然史博物館(Natural History Museum)博士、福田宏 岡山大学准教授らの共同研究グループは、これまで研究例がごく少なく、長く分類も混乱したまま放置されてきた笠形の巻貝アコヤザラ ‘Roya’ eximia(G. & H. Nevill, 1869)(ニシキウズ科 Trochidae)に対し、タイプ標本の探索および解剖学的な形質の精査により、近縁と考えられるハナザラ属 Broderipia(J. E. Gray, 1847)との差異を明確化した上で、新属アコヤザラ属 Akoyazara(Nakano, Yamamori, Marshall, Williams & Fukuda, 2024)を創設しました。また、Broderipia のタイプ種バラザラ(今回和名新称)B. rosea (Broderip, 1834)およびハナザラ B. iridescens(Broderip, 1834)それぞれのタイプ標本が、原記載以来190年ぶりにロンドン自然史博物館で発掘され、レクトタイプを指定して再記載しました。

 本研究成果は、2024年9月30日に、国際学術誌「Molluscan Research」にオンライン掲載されました。

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波あたりの強い環境に生息するアコヤザラ(左)とウニの巣穴に共生するハナザラ(右)
研究者のコメント
「論文が公開に辿り着くまでに必ず査読というステップがあり、査読者のコメントにはどれだけ論文を出版していても一喜一憂するものです。今回は投稿時にはそこまで注意を払っていなかったバラザラの標本は図示した方が良いとコメントをもらったものの、バラザラは日本では全く知られていなかった種なので困りました。しかしながら、改めてバラザラを捜索したところ、共著者の所属するロンドン自然史博物館のタイプ標本庫ではなく、一般の貝類標本の中から、原記載以来190年ぶりにバラザラとハナザラのタイプ標本が見つかるという大発見につながりました。査読者のコメントに感謝しています。」(中野智之)

「ハナザラは、大学院進学後に初めてのフィールド研究対象種となった思い入れのある貝です。その近縁なアコヤザラは当時採集例が少なく、探し出すために何度も高知一周を試みました。その結果、ハビタットをよく理解して多くのアコヤザラを採集できるようになり、このような分類学的な研究にも携わらせて頂くことができました。私の研究者ライフは、アコヤザラやハナザラの笠形の貝殻の上でころころ転がされています。」(山守瑠奈)

「アコヤザラもハナザラも従来は産出記録のごく少なかった種で、近年になって山守さんたちが生態の詳細を明示するまでは、どこでどのように棲息しているのかも不明瞭でした。私など、それらの実物に野外で出逢う機会すら、いまだに得ていません。そこで今回は、ハナザラ・バラザラが記載された1834年以来の文献に徹底的に当たり直し、アコヤザラを含む3種の網羅的な異名表の作成と産出記録の確認に集中しました。その間にWilliams博士のご尽力でタイプ標本が発掘され、約2世紀前に止まったままだった時が突如として動いたのです。分類学ではありがちな展開ながら、今回の論文も思いがけない形の決着で完成に至りました。」(福田宏)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1080/13235818.2024.2403043

【書誌情報】
Tomoyuki Nakano, Luna Yamamori, Bruce A. Marshall, Suzanne T. Williams, Hiroshi Fukuda (2024). Akoyazara, a new genus of limpet-shaped trochids, with redescription of Broderipia J.E. Gray, 1847 (Vetigastropoda: Trochidae: Fossarininae). Molluscan Research.