岩田和也 工学研究科特定助教、前田啓一 理学研究科教授による理学・工学にまたがる研究グループは、Ia型超新星を引き起こす「デトネーション」という超音速で伝播する核融合燃焼の火炎と、地上のロケットエンジンや爆発事故で起こる同名の化学燃焼の火炎との理論的な共通点の多さに着目し、地上の化学燃焼実験に裏付けられたデトネーション予測の理論を使って、Ia型超新星の爆発モデルを検証できることを示しました。
Ia型超新星は、太陽程度の質量の恒星の最終進化段階である、白色矮星で生じる暴走的な核融合による爆発であると考えられています。明るさを精度よく推定することができるため、宇宙の距離指標として使われ、宇宙膨張の証拠として2011年のノーベル物理学賞にもつながっています。それにもかかわらず、爆発の引き金となるデトネーションがどのような状況で発生するのか、結論に至っていません。本研究グループは、地上の化学燃焼実験で見られるデトネーションの最小単位構造「セル構造」がIa型超新星の有力な爆発モデルの一つにおいても見られることを見出しました。さらに、セル構造を用いた地上燃焼の理論を適用することで、デトネーションの発生・消失が判定できることを示しました。
今回の成果は、Ia型超新星の起源という未解明問題に対し、これまでとは全く異なる視点を提案したものです。また、地上実験から得られた工学的分野の知見を宇宙物理学という理学的分野の重要問題に適用した取り組みであり、学際融合の観点からも今後の発展が期待されます。
本研究成果は、2024年9月17日に、国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。
「私はもともと航空宇宙工学系の分野出身で、学生のときから、もともとロケットエンジン関連の『地上の』デトネーションを専門にしていました。当時参加した国際学会の特別講演をきっかけに知った『宇宙の』デトネーションの存在に衝撃を受け、両者のつながりに対する知的好奇心が尽きませんでした。いつか絶対に双方の架け橋になるような面白いことをやってやろうと思い、共同研究者の前田さんのところを訪ねてから4年ほどたちますが、こうして本当に面白い成果につなげられて大変うれしいです。これからもますます私たちの理学・工学系にまたがった研究グループだからこそ可能な、独自のカラーを発揮していきたいです。」(岩田和也)
「この研究は、私自身はじめての、理学・工学分野にまたがった取り組みです。岩田さんは工学研究科所属ですが、勤務終了後や週末に、頻繁に議論のために立ち寄ってくれました。お互いが知らない知識を共有することで新しいアイデアが浮かぶということが何度もあり、ワクワクしながら研究を進めることが出来ました。今回の成果は第一歩、今後ますます発展していくと期待しています。」(前田啓一)
【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.121201
【書誌情報】
Kazuya Iwata, Keiichi Maeda (2024). Viewing Explosion Models of Type Ia Supernovae through Insights from Terrestrial Cellular Detonation. Physical Review Letters, 133, 12, 121201.