乳がん細胞は、リンパ節でCD169陽性マクロファージを選択的に排除し、免疫監視機構を破綻させる―乳がん治療における新たな標的の発見―

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 河口浩介 医学研究科客員研究員(兼:三重大学教授)、河岡慎平 医生物学研究所特定准教授(兼:東北大学准教授)、並びに前島佑里奈 医学研究科医員らの研究グループは、乳がんのリンパ節転移の過程で、抗腫瘍免疫の鍵となるCD169陽性マクロファージが選択的に排除されることを明らかにしました。

 乳がんは女性に最も多いがんであり、しばしばリンパ節に転移します。リンパ節転移は予後不良の指標となるため、乳がんがどのようにリンパ節内の免疫細胞から逃れるのかを理解することは重要です。本研究では、乳がん患者から採取した転移・非転移リンパ節のトランスクリプトーム解析および空間的トランスクリプトーム解析から、CD169陽性マクロファージの減少が乳がん細胞のリンパ節転移と密接に関わることを発見しました。CD169陽性マクロファージは、がん細胞の破片を貪食し、T細胞に抗原提示をすることで抗腫瘍免疫を惹起する重要な免疫細胞ですが、転移リンパ節では著明に減少していました。また、58名の乳がん患者の474リンパ節の検討により、この現象がすべての乳がんサブタイプに共通することを確認しました。

 本研究成果は、乳がんのリンパ節転移におけるCD169陽性マクロファージの重要性を示しており、新たな治療ターゲットとしての可能性を示唆し、乳がん治療の発展に寄与することが期待されます。

 本研究成果は、2024年8月21日に、国際学術誌「eBioMedicine」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
研究の概要:リンパ節でCD169陽性マクロファージが排除され、免疫監視機構が破綻する
研究者のコメント

「本研究は、乳がんがいかにして免疫システムを回避し転移するかという重要な問いに新たな光を当てました。CD169陽性マクロファージの選択的排除という発見は、乳がん転移のメカニズム解明に大きく貢献し、新たな治療戦略の開発につながる可能性を秘めています。この成果は、患者さんの予後改善という社会的要請に応えるものであり、がん免疫療法の進展にも寄与すると期待されます。今後は、このメカニズムをさらに解明し、CD169陽性マクロファージを標的とした新規治療法の開発を目指します。私たちの研究が、乳がん患者さんの生存率向上と生活の質の改善に貢献できることを心から願っています。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105271

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290506

【書誌情報】
Yurina Maeshima, Tatsuki R Kataoka, Alexis Vandenbon, Masahiro Hirata, Yasuhide Takeuchi, Yutaka Suzuki, Yukiko Fukui, Masahiro Kawashima, Masahiro Takada, Yumiko Ibi, Hironori Haga, Satoshi Morita, Masakazu Toi, Shinpei Kawaoka, Kosuke Kawaguchi (2024). Intra-patient spatial comparison of non-metastatic and metastatic lymph nodes reveals the reduction of CD169+ macrophages by metastatic breast cancers. eBioMedicine, 107, 105271.