宇宙創成「インフレーション」の謎に迫る~簡単かつ直観的な方法で原始重力波の計算が可能に~

ターゲット
公開日

 宇宙の創成直後に、非常に高い真空のエネルギーにより宇宙が急激な加速膨張していた時期(インフレーション)を経てビッグバンが起こったと考えられています。この理論は、宇宙の観測を通じて原始宇宙の密度の濃淡(原始密度揺らぎ)を調べる研究によって検証されてきました。しかし、具体的に何が急激な加速膨張を引き起こした駆動源だったのかその全体像はまだ分かっていません。加速膨張宇宙を説明する多くの理論(インフレーション模型)が提案されており、各模型の理論的な予言と最新の観測を比較することによってどの模型が正しいか検証することができます。

 田中貴浩 理学研究科教授と浦川優子 高エネルギー加速器機構准教授(兼:名古屋大学特任准教授)の共同研究グループは、宇宙をモザイクアートのように粗視化して捉え直す「分割宇宙アプローチ」を応用し、原始重力波の数値計算を大幅に簡単化しました。これにより、複雑な数値計算が必要なために解析が難しかった模型も含めて多様な宇宙模型を数値計算できるようになり、重力波観測による創成直後の宇宙の解明につながると期待されます。またこの手法は原始重力波の生成機構を直観的に理解する際にも役立つことを例示しました。

 本研究成果は、2024年6月4日に、国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

文章を入れてください
宇宙の歴史の中で分割宇宙アプローチを使った計算ができる期間
(国立天文台とアメリカ航空宇宙局(NASA)提供の画像から高エネルギー加速器研究機構が作成)
研究者のコメント

「分割宇宙アプローチを使うと、これまでコンピュータで行われていた原始重力波の計算でも、簡単な手計算で行えるようになります。」(浦川優子)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.231003

【書誌情報】
Takahiro Tanaka and Yuko Urakawa (2024). Statistical Anisotropy of Primordial Gravitational Waves from Generalized 𝛿⁢𝑁 Formalism. Physical Review Letters, 132, 23, 231003.